執筆者 広島大学附属高等学校・中学校 阿部哲久 東京都立井草高等学校 杉浦 光紀
4月号からこれまで5回にわたり評価の問題をとりあげてきています。
6回目の今月号では、前号の中学校からの提言に続いて、来年度から学年進行で新学習指導要領がスタートする、高等学校における評価の在り方を、お二人の先生から報告・提案をしていただきます。 (経済教育ネットワーク 新井 明)
■観点別評価で授業改善を
広島大学附属高等学校・中学校 阿部哲久
(1) はじめに
来年度から高校でも観点別評価が導入されます。私自身は02年度の中学校での導入を経験し、現在は高校にも籍を置く立場ですが,中学校導入時は調査書とも直結していることから対応にとても苦労しました。
今回は大学入試で用いられる調査書には直ちに記載されない方針となりましたが,逆に形式的な導入に留まってしまう懸念もあります。
しかし今回の改訂で示された観点別評価は,これまでの小中学校の実践を踏まえて使いやすく整理されており,国際的な学力をめぐる議論等も取り入れたものになっています。
形式的な導入に留めてしまうのはもったいないのではないでしょうか。
(2) 評価と評定
導入にあたってまず気になるのは観点別評価と評定の関係ですが,「学習改善につながる評価」と「評定のための評価」を分けるとスッキリします。
単元の途中で行うのが前者,単元の最後に行うのが後者と考えるとシンプルでしょう(文科省の調査官は「子どもが最も良い状態のところで評定のための評価をするべき」と表現していました)。
例えば小テストや授業での様子を評価するとしてもそれらを全て記録して評定に反映させる(大変な労力!)必要はなく,適切に生徒にフィードバックして学習改善につなげることの方が大切だということです。
こう考えると,単元が終わったところでペーパーテストやワークシートなどによって「評定のための評価」を行えばよいことになります。
(3) 主体的に学習に取り組む態度の評価
現場では「主体的に学習に取り組む態度」をどうするかは最もとまどうところです。
学校での観点別評価導入当初は提出物の状況などを「関心・意欲・態度」の評価に用いる事例も散見されましたが,提出状況やきれいさなどを評価するものではないということは、中学の実践などを経て定着してきました。
特に今回の改訂に関わって国立教育政策研究所の『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』では,
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「主体的に学習に取り組む態度」については,国家及び社会の形成者として,よりよい社会の実現を視野に,現代の諸課題を主体的に解決しようとしている状況を評価する。
「解決しようとしている状況を評価する」については,この観点が,学習の調整を適切にできるか否かを判断するわけではないことを意味している。(中略)自らの学習状況を把握し,学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら,学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価するものである。
次に,「解決しようとしているものは現代の諸課題であるということ」については,ここでいう「課題」が,学習上の課題ではなく,様々な社会的事象から成る現代の諸課題であることに留意する。(中略)そこで学習の結果として,学習内容を人間としての在り方生き方,社会の在り方と結びつけて深く学ぶ事の意味や意義に気付くこと,これからも問い続けていきたいこと(問い続けていかなければいけないこと)を見いだしている状況などを評価することが考えられる。
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と具体的に示されています。(同署p43~44)
例えば学習の見通しを書かせ,途中での学びを記入し,最後に新たな課題を見いだして書かせる1枚ものポートフォリオのプリントを用いることが考えられます。
(4) 思考・判断・表現の評価
「思考・判断・表現」については,記述式による評価(学習した内容をもとに「見方・考え方」を用いて意見を書けるか,等)だけでなく,記号による選択式での評価も可能でしょう。
共通テストの問題には参考になるものが多いように思います。
私自身は,生徒の文章力の影響や採点のブレを避ける意味で,極力選択式で出題(学習した内容をもとに特定の「見方・考え方」を用いて導かれる意見を選択させる,等)するように頭をひねっています。
(5) 評価と授業改善
例えば前述の1枚ものポートフォリオを作成するためには,教員の中で「単元」の構成やまとまり,各時間のねらいとつながりが明確になっている必要があります。
また「思考・判断・表現」の評価問題を作成するためには,思考のベースとなる「授業で獲得させる知識」と、用いさせたい「見方・考え方」が明確になっている必要があります。
評価を意識することは自然に目標を明確にすることにつながり、目標を達成するための授業づくり=授業改善につながるのではないかと思います。
どうせやるなら授業改善につながる観点別評価を意識してみるのも悪くないのではないでしょうか。
■高校での評価原論―“はかる”と”ふえる”―
東京都立井草高等学校 杉浦 光紀
(1) 評価の正しい理解
単元学習で有名な国語教師、大村はまの言葉に学んだことがある。
評価をしたら、学力がふえるのではない。学習指導をするから、学力がふえるのである。「はかる」と「ふえる」の2つを誤解してはいけない。だから、「はかる」に目を奪われず、教材の用意と学習指導(声掛け・足場かけ)の促進こそが大切である。
評価は教師にとって、生徒の学びを見取る絶好の機会。授業改善にもつながる。しかし、全国の先生方は、部活にクラスに授業準備、更にはコロナ対応と、すでにスーパーマンな働き方をしている。
生徒のすべてのアウトプットやパフォーマンスを評価し、評定に換算しなければ、と誤解しないようにしたい。評価そのものが複雑だと、「ボトルネック」(理論は正しくても現実にはうまくいかない)となってしまいかねない。
(2) 効果的な評価の枠組み-ルーブリック
実質的で有効な評価はないか。そこで、ルーブリックである。
ルーブリックは、「学びのガイドライン」であり、どのようなパフォーマンス(発表・論述等)をしてほしいか、「努力の仕方」を生徒と教師で共有するためにある。
単元全体ではなく、ある成果物やパフォーマンスを対象に学習到達度を示す評価基準表である。
ルーブリックの強みは、用いること自体が「ナッジ」(強制ではなく望ましい行動を手助けする方法)である点にある。
指導と評価の一体化が、ルーブリックの用法・用量を間違えなければ、実現できる。
行動経済学に基づいた設計の枠組みに「EAST」があるが、評価もイージー・アトラクティブ・ソーシャル・タイムリーでありたい。この原則に従い、生徒の理解や学びの目標に応じて、回数や方法を工夫するのである。
(3) 評価が活きる場面の厳選
ルーブリックが役立つ場面を2つ。
まずは、現任校での夏休みの宿題である。日本思想の先哲を調べて2学期に発表する課題を出した。
このような課題において、評価のポイントが事前にわかるのは、生徒にとってタイムリーでアトラクティブだ。なぜなら、提出後にこの書き方ではダメだと言われるより、調べようと思ったその場に基準がある方が便利だからである。
3つの項目に絞り、理解がイージーな説明を心掛けた。個人の解釈に幅が出てしまうが、それは事後の振り返りに活かせばよい。
もう1つは、前任校で実践していた新聞記事の発表である。
導入前は、ほとんど調べずに15秒ぐらいの発表で終わってしまう生徒もいた。しかし、事前に発表の仕方や内容についての基準を示し、発表者以外の生徒には評価させるようにしたところ、発表時間も内容も向上した。
努力をしようにも、その方法がわからず、説明を理解するのも苦手な前任校の生徒には、効果抜群であった。
全員が同じ基準で取り組み、他者への発表を意識する点は、ソーシャルだともいえる。
(4) 評価基準の共有で「学ぶ力」を育成
ルーブリックや観点別評価にしても、これまで教師が心の中で行ってきたことである。それを少しクリアにして、生徒にあらかじめ示すことで、以下のような会話(仮)を減らすことになる。
先生「なんで、こんなレベルの内容しか書けていないんだ。教えたはずだぞ。」
生徒「そう言われても、何を書いたらいいか、わかりません…。だから、やる気も出ませんでした。」
先生(心の中で)「これだと学びに向かう力は、Cだな。」
仏道(禅宗)なら、不立文字、以心伝心で秘儀を伝授するのだろうが、40人クラスで週に数時間の授業では難しい。
ゆえに、学びを深めるための目に見える手引きを用意する。評価基準を共有できていれば、どう頑張ればよいかがわかる。完全にブラックボックスで評価するよりは、客観性を保つことにもなる。
努力の方向性を示した上で、生徒が「見通しをもって」「粘り強く」取り組むことを期待する。
そうすれば、観点別でもっとも困る「学びに向かう力」を伸ばせる。
高等学校における観点別評価は、学力を「はかる」のではなく、どうしたら「ふえる」のかを考えて、進めていきませんか?
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