執筆者 青島日本人学校 小谷 勇人
(1)1人の消費者として見た中国経済事情
私は現在、中国の青島日本人学校で勤務をしています。
中国に来てから肌で感じたキャッシュレス決済の浸透具合や、スマートフォンがあればすべての生活がワンクリックで済むこと、逆にないと普通の生活ができないというフィンテック社会には本当に驚きました。
淘宝(中国版amazonのようなアプリ)では、好みの商品のお得な情報をアプリ内メッセージとしてよく受信し、気づけば買っていたといった消費生活です。中国人もこの便利さを進んで受け入れる代わりに、自分の情報を差し出すことは当たり前になっているように感じます。
新型コロナが流行して、スマートフォンの健康コードアプリ(緑色のQRコードが出れば健康)を提示しなければ、地下鉄やバスに乗ることやスーパーに入店することもできません。
10月の国慶節後に青島市では港の労働者が輸入品の冷凍食品を介して新型コロナに感染する第2波がありました。それに伴い、市内では960万人の一斉PCR検査が行われました。すべての検査が陰性であったというニュースがあり、その後は感染拡大の情報は全くありません。
中国では新型コロナ対策としてこれほど厳格に管理がなされているので、経済は順調に回復しているようです。
もう中国は内需だけでもやっていけるのではと聞いていましたが、「これ程までとは!」とまざまざと見せつけられました。
(2)中国人の起業家精神に驚愕
中国に来て、驚いたことに中国人の商売人気質(起業家精神?)があります。
新型コロナの流行は中国経済にも大きな影を落とし、たくさんの商店にシャッターがおりました。
そのまま、「招租(テナント募集中)」の張り紙がされて、まもなく1年という商店もあります。しかし、そもそも青島市では2年経営がもてば老舗、一番儲かるのは実は内装屋ではという笑えない話があります。
先日、こちらで働く日本人に、中国経済が日本経済と違う点について聞く機会がありました。
「100%の完成度を持つ商品やサービスにこだわらず、できることからドンドン取り組む。失敗したと考えればすぐにやめる。常にスピード感がある。」と回答をもらいました。
商機があれば準備が万全でなくても会社をつくってみようとする精神は、日本人として見習いたいものです。
このような起業家精神がお隣の国に急激な発展をもたらしていることを今の中学生に伝え、失敗を恐れず自由な発想で挑戦する姿勢を身に付けた人材が増えてこないと、日本の中で革新的なイノベーションは今後起きにくいのではないかと思っています。
今こそ、中国企業から日本企業が学ぶべきことがあるのではないでしょうか?
(3)「中国企業から日本企業が学ぶべきこと」を授業化する
先日、中学3年生の「これからの経済と社会」の学習の1時間で「他国に学ぶ日本経済の未来」という授業を行いました。
中国経済の中で進んだキャッシュレス決済やアリババの芝麻信用などの信用スコアの実態やBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)に代表されるような中国ベンチャー企業の特徴ある経営戦略について紹介し、まとめとして日本に導入した際のメリットとデメリットを中学生に考えさせたいと思い、授業を構想しました。
導入として、コロナ禍の世界経済の中で結果として中国は2020年度GDPを5%増加させたことに触れました。
生徒たちは、どの国もコロナで苦しい経済状況と考えていたようで、この結果には驚いていました。補足として、1~3月期は-6.8%であったことを伝えると、年間でここまで持ち直した理由は何かということに俄然興味が湧いてきたようでした。
青島に住む生徒はお小遣いをWe chat Payで親からもらっているようで、キャッシュレス決済の話はすんなり理解しましたが、その背景にある信用スコアの実態に驚いていました。
信用スコアをあげるためにはさまざまな個人情報を細かく書かなければならないという話には「個人情報だから怖い」という声が聞かれました。
芝麻信用のスコア算出において重視されているのは「学歴や勤務先」、「資産」、「返済」、「人脈」、「行動」の5つの指標です。
生徒からは、「人脈や行動はどこまで分かられているんだろう」という声も聞かれました。
BATHの話では、コロナ禍の中でもさまざまなイノベーションが起き、生活が大きく変わったことを生徒は実体験しているので、商機があれば転職や起業は当たり前、コロナですらビジネスチャンスとする中国企業の姿勢に共感していました。
最後に思考ツールのバタフライチャートで日本企業に導入した際のメリットとデメリットをまとめました。
「日本は安全性を大事にしすぎて、いろいろな開発をする機会を失ったと思う。」というデメリットの記述は私の心にも強く突き刺さりました。一方で、「日本の安全性にこだわる部分は強みでもあるので、両方の良いところをみていく必要がある」というつぶやきは中学生の学習段階として染まりすぎていない良い考えだと評価しました。
(4)比較のなかから未来を構想する学習を
私は中学校の経済単元のまとめに「未来の日本経済や企業の在り方を中学生なりに構想する学習」が必要であると考えています。
その際、アメリカのGAFAや中国のBATHの特徴ある経営戦略について触れることは、大きなヒントとなると思っています。
今回、私が中国にいるのでBATHについて取り扱いましたが、これについては日本と比較してイノベーションを感じさせるのであれば、どの国や地域の経済事情について扱っても良いと考えています。
比較した上で、日本に取り入れた際の影響を考えることが、何よりも大切な学習機会となるはずです。
中国にて、私自身の学びも継続中です。
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