執筆者 新井明

 タイトルは少々奇をてらっていますが、テストの重要性とその作成に関する問題提起として読んでください。

(1)新テストのインパクト
 センター試験に代わる新テストの試行問題を見てこれは「かなわない」なと思った先生は結構多いのではと思います。
 「かなわない」というのは二つあり、一つは、これは授業改善への「圧力」だという点からの感想です。いままでのやり方をかえなければいけないのは「かなわない」。
 もう一つが、このレベルの問題を作成するとなると相当のエネルギーが必要になり、それを現場でも要求され、こんな問題をつくれといわれるのは「かなわない」。
 前者は、今夏の夏休み経済教室でとりあげるテーマで、今回はとりあげません。
 問題は後者です。
 経済の観点からは、できるだけすくない労力で最大の効果をあげるにはどうしたらよいかという問題設定ができるのではというのが今回のヒントになります。

(2)次期指導要領を逆手に取る
 周知のように、次期学習指導要領は、二段構成になっています。
 一段目は知識を身につける、二段目は思考力、判断力、表現力を身につける、です。
 テストではこれを逆手にとればいいのです。
 細かい問題をちょこちょこ出すと、これは知識、これは思考力など分類しなければなりません。
 それなら、いっそのこと知識部分は知識確認ということで短答問題をまとめて出すという形で処理して、思考力、判断力、表現力を確認する論述問題を出せば良いのではないでしょうか。
 そんな機械的な分け方はできないという意見もわかりますが、このあたりは合理的にわけて考えた方が教師も生徒も助かるのではと思いますがどうでしょうか。

(3)知識確認には選択問題で
 知識確認の方法にはいくつかあります。
 一つは、短答式で答えさせる問題や穴埋め問題。これだと丸暗記が可能になってあまり学習効果は期待できません。
 もう一つは、正誤選択問題、いわゆる〇×問題、文章の正誤を判定させる方式です。
今回のおすすめはこちらです。
 なぜなら、文章をしっかり読んで、その正誤を判定するのは、今問題になっている読解力と関係するからです。
 新井紀子さんの指摘する「教科書が読めない生徒たち」を少しでもなくすには、教科書の文章をもとにした選択肢(命題の文章)を作成して、その真偽を問う問題を沢山やらせれば良いはずです。
 もちろん、これは少々乱暴な言い方で、命題に対して裏、逆、対偶に相当する文章を作成してそれを判定させるなど、選択する文章を工夫することも必要であることは言うまでもありません。
 その場合、四択問題にする場合は必ずもう一つ、「このなかに正解はない」をいれて五択にしておくことです。そうすれば、当てずっぽうな解答はできなくなります。
 また、二つの文章を出して、その二つがあっていたら①、一つがあっていたら②もしくは③、二つとも間違っていれば④というような形式の選択問題を出すこともできます。

(4)思考力、判断力、表現力は論述問題で
 思考力、判断力、表現力を問うには論述問題、記述問題が求められるでしょう。
 やり方は二つです。
 一つは、授業のなかで考えさせたり、討論させたり、発表させたテーマに関してあらかじめ予告して、エッセイ(小論文)を書かせる方式です。
 その際には、書く条件や書き方を指定して準備させても良いかもしれません。
 これは学校の試験の例ではありませんが、加藤創太・小林慶一郎編著『財政と民主主義』(日本経済新聞出版社)では、最初に「大問」を出し、それをさらに4つの「小問」にわけで著者に文章(この場合は論文)を書かせています。
 このやり方は、授業のテーマ学習の方法にも使えますが、予告の論述試験にも使える方式です。
 もう一つは、試行テストのように、はじめて見る創造的な問題を作成することですが、これは無理に行なわなくとも、ここまで書いた選択問題と論述問題の組み合わせをしておけば、余裕のできたときにやれば良いと言うことになります。
 なお、論述問題では、模範解答を自分で書いてみて、採点基準をあらかじめ生徒に伝えておくこともやっておいた方が良いと指摘しておきます。

(5)テストを楽しく、生徒との対話にする
 この小見出しのようなテストができれば最高ですが、なかなかそう簡単に問屋は下ろしてくれません。
 でも、この程度の「手抜き」をしてテスト問題を作成してもバチは当たらないと思うのですがいかがでしょうか。
 ちなみに、私はこれから予定されている前期の中間考査(二期制の学校に出校しています)は、この「手抜き」方式でやろうと思っています。結果はどうなるか、論述問題など作成に「手抜き」をした分だけ、採点の時の苦しみが見えているようで怖いのですが、それも対話的テストのためということで、乞うご期待というところです。

(メルマガ 125号から転載)

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