執筆者 新井明

(1)ある生徒のつぶやき
 ある高校三年生のつぶやきから今回の話をはじめます。
 生徒「センターで倫理、政・経うけるつもりなんだけれど、戦後の世界史や日本史がわからないから、理解出来ない部分があって先生どうしましょう。」
 先生「えっ、ここやっていないの?」
 生徒「はい、世界史は第一次世界大戦で終わって、私は理系だからそれ以上勉強していないんです。日本史も選択だと戦後史をやるみたいだけれど、私必修だけだから現代のことがわからないんです。」
 私「…」
 こんな生徒のつぶやきを聞いたり、質問されたりした高校の先生は結構いるのではと思います。
 経済学習は経済の仕組みを学ぶといっても、その仕組みがここまでどう出来てきたのか、基本的な事実やその変遷をしらないといくら概念や理論を学んでも土台がぐらぐらした上に建つ家のようなものになりかねません。
 とはいえ、限られた時間で歴史をおさらいするわけにもゆかず、まあ、歴史の教科書を読み直しておきなさいよとか、政・経の教科書にも歴史が触れてあるからそこを読んでおきなさいくらいの話で終わってしまうことが多いのではないでしょうか。
 歴史の担当者からも同じことがいえます。
 例えば、世界史の自由貿易や金本位制の箇所や日本史の金解禁の箇所。これは経済の分野だから政・経でやるだろうからここは簡単に触れておくだけにするからね、というような発言もあるでしょう。
 科目の狭間に落ちてしまい、困っているのは生徒ということになりかねません。

(2)たてとよこの突き合わせを
 専門性を重視してきたいままでの高校では、この種のたこつぼ化は珍しいことではありませんでした。そのすきまを、出来る生徒は自分で埋めたり、予備校の講義などできたのが実情です。
 このようなことが起こらないためには、社会科、地歴科、公民科の教員同士がきちんとした情報交換やすりあわせをしておけばよいのですが、年間授業計画も形式化していて、なかなかそれが出来ないから先の生徒のつぶやきが出てくるわけです。
 その対策には、たて(時代)とよこ(テーマ)を突き合わせた表をつくればよいのですが、それには教科同士の連携やリーダーシップを握る人が必要になります。
 文科省もそういう空白に落ち込むことがありうるということで、中学校までは「小中学校社会科における内容の枠組みと対象」という表をつくり、学習指導要領の解説に掲載しています。(中学校解説社会編だとp184-185)
 ただし、高校では、科目の学年配当が学校によって異なるので、この種の一覧表を作成することは各学校の課題ということになります。

(3)シラバスをつくる
 一覧表をつくらなくても、科目同士の情報がわかり、自分の授業計画を「見える化」するためには、シラバスをつくることです。
 シラバスと言っても、そんな大変なことでなくともよいので、定期考査間に何をやるのか(実質10時間程度)を一覧表にしておけばよいのです。
 それを関係の先生と交換しておけば、この科目では今ここをやっていて、この部分は抜かされているなというような情報がわかります。
 シラバスづくりで役に立つのが、教科書のもくじです。
 見開き1テーマの教科書では、記述が薄いところ、濃いところがまだらに入っていますから、それを見極めながらストーリーをつくることができれば、自分の授業計画ととなりの科目との照合もでき、一石二鳥です。

(4)もっと簡単な方法は
 そんな形式的なことをやらなくともできること。それは、となりの科目の先生と雑談をすることです。「私はこんなところをやっているけれど、あなたはどう?」「ここはやっていないので、よろしく」などの話できればいいんです。
 そんな風通しのよい関係ができていれば、完全とはいかないでしょうが、生徒が冒頭のつぶやきを発言しなくてもすむようになることでしょう。
 ちなみに、先月の本欄で紹介した神奈川の金子先生。これまでは小さな学校だったので、社会科は一人。世界史、日本史、地理、現代社会、政治・経済などすべての科目を担当していたとのことです。
 たくさんの科目を担当する大変さはあっても情報の空白は生まれないという意味では、最強のシラバス教員(man of syllabus)かもしれませんね。

(メルマガ 113号から転載)

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