執筆者 新井明
今回は、唐木清志先生(筑波大学人間系教授)がどこでも使えるアクティブラーニングのゲームとして紹介されている「熱気球ゲーム」を紹介します。
このゲームは、開発教育や人権教育で使われているゲームで、ご存知の先生も多いかもしれません。多くは道徳の授業で使われていることが多いと思います。
ゲームは単純です。熱気球で冒険しようとしているあなたが乗っている気球が事故をおこして、積んでいるものをひとつずつ落としてゆかないと墜落してしまうという状況設定です。
積んでいるものは、①きれいな水、②お金、③愛し愛されること、④命令・服従を強制されないこと、⑤親兄弟、⑥自由な時間、⑦ぐっすり眠れる布団、⑧みんなと違っていることを認められること、⑨平和、⑩丈夫な体です。
これを捨てる順番に番号(10→1)をつけ最後に何が残すかをまず個人で決めさせ、次に4人グループで話し合いをさせながらグループの総意を決めさせ、発表させるというものです。最後に、このゲームから発見できたものを書かせて振り返りをさせます。
人権学習では、積んでいるものを権利として、どの権利から落としてゆくのかを考えさせるという手順です。また、積んでいるものも10以上にして選択肢を増やしている授業例もあります。
このゲーム、最初に経験したときには、選択肢の質が違い過ぎて私自身は、順位が付けられませんでした。そして、これが授業として成り立つのか疑問に思いました。そして、唐木先生に質問したのですが、唐木先生は「それでもいいんです。そこから考えることがこのゲームの教材としての優れたところです」という回答でした。
そこで、実際にやらせてみました。実施したのは、非常勤講師として出向している大学での「経済の学習の組み立て方」という講義の冒頭です。
個人の選択はそれほど問題になりませんでしたが、班活動になってからは自分とはあまりにも違う選択(物質優先、精神優先、現在優先、将来優先など)をしているメンバーがいて、まずはびっくり。そこから話し合いで合意に到達するのに一苦労。なかには、各人の選択の番号を足して、機械的に順番を決めようというボルダルールに近い方法で合意を目指したところもありました。でも、ほとんどの班は、制限時間内では一つにはまとまりませんでした。
これがどうして経済の授業の冒頭にでてくるかという問いに対しては、当初は分からなかったようですが、講義を通して経済問題が希少性と選択の必要から発生することに気づくと目からうろこのようでした。機会費用の紹介のあとでは、このゲームと経済学習の関係が見えたという反応がたくさんでてきました。
中高生にこのゲームをやらせる場合は、経済学習の冒頭でやってもよいし、ある程度、学習が進んでから中間まとめ的にやってみることもできるでしょう。大事なのは、落とす順番が最後に近づいたときに、なぜそれを選んだのか、選ばなかった理由はなにか、もしそれを選ばなかったらどんな結果になるのだろうと、根拠や理由をきちんと説明できるように指導してゆくことです。
いつでも、どこでも、誰にでもできるという点ではすぐれた教材です。それゆえに、何のためにこれをやるのか、しっかり理解できるような見通しをもってこのゲームを使うことが授業の成否を決めるでしょう。
唐木先生の「そこから考えること」ができるこのゲーム。選択肢を工夫して、経済だけでなくいろいろな場面で試みてください。
(メルマガ 106号から転載)
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