■ 服部孝洋『為替介入とは何か 200兆円規模「外為特会」が生まれた謎』集英社新書2026年
① なぜこの本を選んだのか?
「先生、為替介入って何ですか?」という生徒からの質問に、「待ってました! その質問」というように自信を持って対応できるための一冊になると思い選びました。本書は、金融だけでなく財政に関する理解も深めることができる一冊だと思います。
② どのような内容か?
1.服部孝洋先生について
服部先生は東京大学金融教育研究センター特任准教授です。著書に『はじめての日本国債』(集英社新書)などがあります。金融に関して、生活者目線からの発信を行っています。
2.なぜ為替介入を行うのか?
「円安に対応するために、巨額な為替介入をした」というニュースをどのように解釈すればよいのでしょうか? 為替介入を行う権限を持っているのは財務省で、意思決定者は財務大臣です。何の目的のために? 具体的にどのようにして介入するのでしょうか?(第1章)
3.負債を持つ一方で資産を持つことにもなります
財務省が実施する為替介入の大部分はドル・円の為替レートへの介入だそうです。そして、そのほとんどが、行き過ぎた円高への対応です。円高対応ですから、日本政府は短期的に円を借りて、ドルを買うということになります。
この買ったドルで米国債を購入します。為替介入の結果得られた外貨資産は、外国為替資金特別会計(外為特会)という財布に入り、財務省が管理するのです。(第1章)
4.為替介入の目的は?
ところで為替介入の目的は何でしょう? 適正レートから乖離した為替レートを適切なレートに戻すために行うと、とりあえずは説明できます。
それでは為替介入そのものに効果はあるのでしょうか? 経済学者の多くは、効果はあるけれども一時的なものだと判断しているようです。財務省が数量面で為替市場を圧倒することには限界があるのですね。 (第1章)
5.上から下に向けての政策判断
為替介入を行う権限を持っているの財務省の事務方ツートップは事務次官と財務官です。為替介入を所管する為替市場課です。略して為市課(ためしか)と呼ぶそうです。
政策判断は、通常下から上に向かいますが、為替介入の場合には上から下に向かうそうです。なぜでしょう? (第2章)
6.財務省、金融庁、日本銀行が役割を分担している
それでは、財務省が行う為替介入の実態はどうなっているのでしょうか? 「覆面介入」「単独介入」「協調介入」「口先介入」「委託介入」について教えてくれます。財務省、金融庁、日銀それぞれにどのような役割があるのかを知ることができます。
7.為替介入で得た資産はどうなる?
財務省は、為替介入の結果、多くの資産を得ました。残高は約200兆円です。1990年代と2000年代に巨額な円売り介入をしたためです。
この資産は、主として米国債で保有しています。なぜ米国債で保有するのでしょうか?
その理由を読み取ってみてください。 (第4章)
8.特別のお財布に入れておくということ
この200兆円の資産には、特別のお財布として「特別会計」が用意されています。これは一般会計とは異なります。
本書で一般会計と特別会計との関係について読み取ってみてください。「財政の硬直化」という考え方を用いてわかりやすく教えてくれます。 (第5章)
9.予算って1年単位のはずですが・・・
特別な会計ですから、ルールも特別です。一般に、国や地方自治体(学校も含みます)の「予算」には会計年度独立の原則があります。ところが為替介入により得たお金に会計年度独立の原則を当てはめると、いろいろな問題が発生します。
そこで「原則の例外措置」をつくったのですが、その時の背景が書かれています。この例外措置に関しては、ある概念が紹介されています。どのような概念なのでしょうか? (第5章)
10. 200兆円を管理するリスク
この介入により得た約200兆円のお金を管理するのはたいへんです。為替リスクもあれば金利リスクもあります。どのようなリスクがあるのかを具体的に知ることができます。
先生のための夏休み経済教室でも取り上げました金利と価格が逆の動きについて、わかりやすく教えてくれます。 (第6章)
11.政府の財源としての外為特会
この200兆円のお金は、政府の財源です。一般会計歳出・歳入の円グラフの、どの部分に外為特会の剰余金は含まれるのでしょうか? その場所を読み取ってみてください。
この剰余金が発生するために必要な条件は何でしょう? よく新聞にも掲載されている、ある数値に注目します。 (第8章)
12.それ・・・日銀の直接引き受けにならないの?
財務省は、為替介入に必要な円を調達するときに「政府短期証券」(FB)を発行します。この債権は「国債」とはみなしていない不思議な仕組みが紹介されています。
財務省は、FBを発行すると、それを日銀に購入してもらいます。この行為は直接引き受けにならないの? と思うのですが、そうではないということを明快に教えてくれます。 (第9章)
13.どうして為替市場に取引所がないのか?
ここで素朴な疑問です。どうして為替相場は取引所取引にならないのでしょうか? この問いに、魚市場やコンビニエンスストアの例えを使って、わかりやすく教えてくれます。
「私たちが今100円持っていて、1ドルを受け取ったとします・・・」といった具体的な書きぶりは、読み手として助かります。 (第10章)
14.夏休み経済教室の会場について
取引所といえば、東京証券取引所や大阪取引所が思い浮かびます。この2つの取引所は何が違うのでしょうか?
実は、大阪取引所は先物取引の主たる舞台なのです。先物取引は金融産業において日本が世界に最も誇れるイノベーションの一つとして紹介されています。
先生のための夏休み経済教室が開催された日本取引所グループ誕生の歴史を知ることができます。 (第12章)
15.本書の全体像
以上が、本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
第1章 為替介入と外為特会とはなにか
第2章 為替介入を知るためには財務省の体制を知るべき
第3章 為替介入の実態
第4章 財務省は外貨建て資産をどのように運用しているのか
第5章 予算と特別会計
第6章 外為特会とリスク管理
第7章 財源としての外為会計
第8章 外為特会によるドル貸し出し
第9章 為替介入と資金調達
第10章 為替市場とデリバティブ(金融派生商品)
第11章 フォワード(為替スワップ)とカバー付き金利平価
第12章 通貨先物と海外の投機筋のポジション
③ どこが役に立つのか?
「先生、為替介入って何ですか?」という質問に回答するための枠組みを形成することができます。その枠組み形成に必要な外為特会についての知識を整理することができます。頻繁に報道される日米の金利について、これまでよりも敏感に見るようになるはずです。
そして、為替介入をきっかけに、日本の財政についても深く知ることができます。「予算のプロセス」を紹介しているところは、教材を創るときに役立つ具体例でいっぱいです。
為替介入をきっかけに、経済の仕組みについて、私たちが知っている知識と結びつけて教えてくれるところが本書の持つ大きな強みだと思います。
④ 感 想
紹介者(本コーナー執筆者)が教師になる前、二十歳そこそこの頃のことでした。新聞に掲載された写真を見て「この毎日テレビで見かける某有名な政治家と一緒に写っている方は誰だろう?」と思い調べたことがあります。それが行天豊雄さんでした。
何も知らなかったので、どこの選挙区から当選した方なのか? と調べはじめたのです。その過程で、(政治家ではなく)財務官という仕事があることを知りました。本書は、 どのような人がどのような仕事を分担しているのかを理解できる一冊だと感じました。
(金子幹夫)
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