■ 奥村信幸『信頼できるニュースって何? つくり方から考える』岩波ジュニア新書2026年

① なぜこの本を選んだのか?
 私たちは「社会の土台」を教えるときに、何を教えればよいのでしょうか。その手がかりを見つけることのできる一冊だと思い本書を選びました。
 タイトルにもあります「信頼」を用語として捉えるのではなく、感覚として受け止めることのできる一冊になると思います。

② どのような内容か?
1.奥村信幸先生について
 奥村先生は、テレビ朝日で報道局ディレクターなどを務めた後、立命館大学産業社会学部教授を経て武蔵大学社会学部教授で研究を続けています。
 立命館時代のインタビュー記事から、「ジャーナリズムは歴史の最初の下書きである」という言葉を引用しながら、ニュースと歴史の根っこは同じものなのだと捉えていることがわかります。

2.ニュースって何?
 ニュースが無条件で信用される時代が長く続いていました。この間、新聞・テレビといった伝統的メディアは、ニュースが信頼されるための条件を説明してきませんでした。
 この、ニュースを無条件に信用する時代は終わったようです。私たちはメディアに向かって感想や要望を伝えなくてはいけない時代が到来したのです。

3.場面設定
 そこで、本書は「信頼できるニュース」をどのように発信していくのかというテーマを考えていきます。舞台は、どこにでもありそうな高等学校です。
 この高校には、新聞が2紙登場します。一つは、生徒会が学校の支援を得て発行する紙の「あおぞら高校新聞(以下、高校新聞)」、もう一つは部活動として作成する「あおぞらタイムズ(以下、タイムズ)」です。予算が足りないため、ウェブ上で発信しています。

4.制服をめぐる二つの新聞報道
 最初の話題は「制服」です。高校から突然「夏季の制服デザインを新しくする」というアナウンスがあったのです。
 高校新聞は事前に情報を学校からもらっていたようで、デザインのイメージ画を掲載していました。学校の支援を受けている新聞の強みです。
 一方の「タイムズ」は、制服の必要性について皆と話し合うべきではないかという視点で記事を企画します。ところが、発行される二日前に生徒指導の先生から、記事の掲載をやめるように言われます。本案件は、どのような問題点を示しているのでしょうか?

5.曖昧なルールを定めるということ
 学校は、校則の曖昧な表現を利用して記事の内容変更を迫ったようです。学校は特別なところで、部活動が作成するメディアの編集権がローカルな法(校則)により一定の制限を受けるという解釈が示されます。
 ここで本書は、アメリカ合衆国憲法修正第一条を取り上げます。当時はニュースや意見を広く知らせる方法が、演説、新聞、本の出版しかありませんでした。表現の自由についての原型がどのように形成されていったのかという歴史を知ることができます。(第1章)

6.先生の話が長いのは・・・? 
 その後「タイムズ」の生徒たちが校長先生に質問します。その結果、校長先生は全校集会で説明することになりました。高校新聞とタイムズから質問を受けると約束したのです。
 全校集会が始まります。校長先生は制服の問題とは関係のない話しを延々と続けます。質問時間は、最後の2分間だけでした。ここで私たちが考えるべき問題が5個提示されます。(第2章)
 
7.外部の人間に対する力学がある?
 物語中の学校だけでなく、世の中において権力を持つ多くの人は、嫌がる質問をする取材を避けたいわけです。
 日本は先進7カ国の中で「報道自由度ランキング」は最下位だということ(本書執筆時点)を「記者クラブ」を題材にして教えてくれます。生徒と、権力を持つ学校との対話は読み手を引きつけます。(第2章)

8.取材をするときに大切なこと
 次に、部活動の新聞紙 「タイムズ」は「知る人ぞ知る地元の名所」という特集を組むことになりました。対象は「右田亭」と「左川商店」という二件のお団子屋さんです。
 取材の過程で、ライバル関係にあるのに片方だけを取材するという問題、根拠なしに「いい店だ」と書いてしまう問題、取材時にお団子をごちそうになってしまうという問題が出てきます。ここで本書は、「取材するというのはどういうことか?」を教えてくれます。

9. 報道という仕事に必要な資格は?
 新聞は、公平・公正なニュースを伝える仕事なのですが、実は正式な資格はありません。なぜでしょう? 資格がないことと信頼を得ることとはどのような関連があるのでしょうか? 「なるほど!」と思わせる説明があります。
 ちなみに、自ら取材やニュースを発信するルールや手順を定め、HPで報道の原則を公開している日本のメディアは2社あるそうです(2026年時点)。どこだと思いますか?(第3章)               

10.バスケ部エースからの相談
 ある土曜日の午後、「タイムズ」の部室にバスケット部のキャプテンが来ました。
 監督の指示で特別なサプリを飲むように指示されている。指示されたのはレギュラーメンバーが中心である。持久力がアップするらしいそのサプリには何も印刷されていない箱に入っている。どうしたらよいのかわからないので力を貸してほしいという相談でした。
 
11.情報源を守る
 さっそく取材を・・・というわけにはいきません。うかつに監督に取材したら、誰が新聞部に相談したのかという犯人捜しが始まってしまうからです。ここには、情報源を傷つけないという考え方があるのです。
「タイムズ」の部員たちは、複数の証言を得るために、ほかのバスケット部員にきくことにしました。その結果、この話が真実であること、そして監督の力が強いことがわかってきたのです。
 「タイムズ」の果たす役割は何でしょう? 新聞部の部員は「これは生徒の安全を学校がどう考えるかの問題だ」と言います。人権の問題として取材をするというのです。

12. 高校生は入ってはダメ
 物語は急展開します。この件について、「○○高校バスケット部でサプリ無断実験、問われるスポーツ倫理」という記事で新聞、テレビが一斉に後追い報道をはじめるのです。
 学校は記者会見を行うのですが、「タイムズ」の記者は部活動ということで入り口で止められてしまいます。読者は「権力」がどのようなものかを感じ取ることができます。

13. 自分でルールを決めることができる力
 本書はこの「権力」を「自分でルールを作り、守らせる強制力をもっているということ」(p.101)だと説明しています。
 学校も権力を持っているのですね。ニュースは、この権力の腐敗や権力の暴走を止める重要な役割を果たさなければならないのです。そしてニュースは、問題の発生を知らせ、議論の場をつくり、リーダーに方針の変更を迫るための根拠を提供するのです。(第4章)
                                 
14.謎のアカウント登場
 本書最後のストーリーは生徒会長選挙です。二人の候補が出ます。投票日まであと12日となった時、謎のアカウントが登場し「重大発表をする」という予告があったのです。
 予告通りに配信された内容を見ますと、そこには、候補者の音声が添付されたレイシスト発言が掲載されていました。
 「タイムズ」の部員が、音声の主とみられる候補者に確認をとろうとします。ところが候補者は新型コロナウィルスに罹患して入院してしまいました。「確認できたことしか書かない」という部員の発言が印象的です。

15.正しい情報を伝える目標の先にあるものは?
 部員たちは正しい情報を伝えたいのですが、それには時間がかかり不安でいっぱいになります。その時、大学の先生がアドバイスをします。
 それは「こんな情報が足りていません。正しい情報が出るまで判断を待ちましょう」と注意を促すことがニュースメディアに求められているというものでした。今の時代に、何がメディアに求められているのかを感じ取ることができます。

16.フェイクニュースという言葉は使わない
 今、「フェイクニュースという言葉はできるだけ使うのを控える」というのが世界的な常識になっているそうです。
 もともとは「正確でない情報」を示す言葉でしたが、一部のリーダーが気に入らないニュースメディアに対して「フェイクニュース」と呼んで批判するようになったからです。一部のリーダーって誰なのでしょう? 本書の中から探してみてください。

17.本書の全体像
 以上が、本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。
 ウォームアップの話――ニュースとは何か?
 プロローグ あなたの学校でも起きる問題かも…
 1章 何を着るかも「表現の自由」だ
 2章 質問できない説明会に「知る権利」はない
 3章 その「おいしい」が信頼される条件とは
 4章 不正を告発した選手を守るには
 5章 生徒会長選で飛び交うフェイク情報に立ち向かえ
 エピローグ ニュースの社会的な役割とジャーナリズムについて

③ どこが役に立つのか?
 中学校社会科の政治分野や高校「公共」(政治的分野)の学習を捉え直すのに役立つ一冊です。
「もしも新聞(メディア)が存在しなかったら、国会や内閣などの統治機構はどのように振る舞うのか」という視点は、社会や経済活動を支える枠組みがどのように成り立っているのかを考える良い問いになります。
 本書は、学校という身近な舞台を通して「権力」とメディアの関係を描いており、情報への向き合い方や本物の「信頼」について考える授業づくりに活用できます。
 生徒は、この「信頼」という基盤があってこそ人々がつながりを形成し、豊かな経済活動を営むことができるのだと実感するのではないでしょうか。

④ 感 想
 新しく提案している経済教育には「分業と交換にはつながりが必要になる。つながるためには信頼がなければならない。信頼があったとしてもそれでもなくならないのが不公正」という一文があります。
「それでもなくならない不公正」に対して、私たちはどのような工夫をすることができるのでしょうか? 現代だからこそ必要な工夫としてジャーナリズムの果たす役割があるということを教えたくなる一冊だと思います。
                                              (金子幹夫)

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