①どんな本か?
 タイトル通りの食べ物を切り口にして現代の経済や社会の在り方を解き明かし、これでよいかと問題提起をしている本です。サブタイトルは「私たちを動かす資本主義のカラクリ」。

②どんな内容か?
 はじめに、おわりにと、序章から第5章までの全6章の構成です。
 はじめにでは、一日の食費が330円しかなかったらどうするかからはじまり、マンキューの経済学は希少な資源の管理問題を扱うという定義が紹介され、世の中それだけでは説明できない大きな問題たくさんあるのではと異議をとなえます。
 序章では、はじめにで提示した異議の背後にあるのは資本主義経済であり、そのロジックを食べ物から追求するとして、聖護院だいこんやコンビニスイーツなどから分析してゆきます。
 第1章は、小麦を素材に、食べ物が商品になってゆく過程を追いかけます。
 第2章では、現代社会のグローバル化を、モノとカネの動きから紹介しています。ここでは比較優位の理論だけでは説明しきれない現象を食、ものづくり、おカネの動きから追求しています。
 第3章は、市場を支配する巨大企業を、アグリフードビジネスを紹介しながら分析します。
 第4章は、現代社会の金融化の現象がテーマです。ここではマネーゲームになってしまった金融化の現実を自身の体験も踏まえて紹介されています。
 第5章は、技術革新の問題を食のデジタル化、ビッグデータの支配の問題として分析します。
 おわりにで、ここまでの記述を総括するとともに、現在の経済学は現実を十分に説明できないという経済学批判と、ここまで取り上げてきた問題を超えるため著者の提言が書かれています。

③どこが役立つか?
 三つの点で役立つでしょう。
 一つは、具体的事例の紹介です。食べ物は生徒にとっても身近な導入素材になります。日頃食べているファストフードやこなもん、野菜、果物、お菓子などが教材のネタになるでしょう。ここでは、農業問題という枠ではなく、経済全体のシステムに組み込まれた食べ物というアプローチができるはずです。
 二番目は、教科書にでてくる現代の主流派経済学の記述を裏側から見ることができる点です。著者は、教科書で登場する需給曲線や比較優位などの理論は完全競争市場や多くの前提があって成り立つ点を、現実と違うじゃないかという生活者の実感から攻めています。
その著者の姿勢から、だから現代の経済学は間違っているのではなく、なぜそのような前提で理論が構築されているか、現代の経済学の存在理由を改めて考える手がかりを得ることができるでしょう。そして理論と現実のギャップをどう説明してゆくかを考える中で、生徒の素朴な疑問に答えることができると思います。
 三番目は、探求授業のモデルとなることです。第5章の技術革新の箇所では、ChatGPTに「食におけるイノベーションを教えて」という質問をして、その答えに対して突っ込みを入れるという取り組みをしています。これなど、生徒に取り組ませてもよい新しい授業スタイルになるでしょう。

④感想
 この本に出てくる用語には、資本主義、使用価値、交換価値、搾取などがあります。かつてマルクス経済学を学んだことのある紹介者にとっては懐かしい言葉だなという印象でした。
 著者は、丹波の農村での農業生活、香港の国際金融センターでの仕事など多彩な経歴を経て経済学を本格的に学びはじめたと書いています。その経歴や取り組みから書かれたこの本は、アグレッシブです。その意味では、突っ込みどころも結構あり、読んでいて面白い本でした。
 先に紹介した小塩本、次に紹介する田内本と比較しながら、どの本が現代社会を理解するのに最も説得力があるか、先生方がご自身で考えてみると良いのではと思います。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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