①どんな本か?
 元ゴールドマン・サックスのトレーダーだった著者の手による小説です。サブタイトルは「ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」」です。

②どんな内容か?
主人公は、中学2年生の男の子。将来はいい大学に入って給料のいい会社で働こうと漠然と思っています。
その彼が、ひょんなことから投資銀行で働く女性と出会い、”ボス”と呼ばれる謎の大富豪の屋敷で雨宿りをすることになり、ボスは3つの謎が解けたら、お金でも屋敷でもくれてやると言ってきます。
その3つの謎とは、
―お金自体には価値がない。
―お金で解決できる問題はない。
―みんなでお金を貯めても意味がない。
その謎を解く過程でお金や経済についての見方を学んでゆくというストーリーです。
目次を紹介しておきます。
プロローグ 社会も愛も知らない子どもたち
第1章 お金の謎1「お金自体には価値がない」
第2章 お金の謎2「お金で解決できる問題はない」
第3章 お金の謎3「みんなでお金を貯めても意味がない」
第4章 格差の謎 「退治する悪党は存在しない」
第5章 社会の謎 「未来には贈与しかできない」
最終章 最後の謎 「ぼくたちはひとりじゃない」
エピローグ 6年後に届いた愛

③どこが役立つか?
 目次でもわかるように、前半の3つの章が「謎」を解き明かす貨幣論の部分です。
ここでは、貨幣の発生史が扱われます。なぜ価値がないのかの謎解きがされます。また、貨幣の交換手段としての役割が紹介されます。そして、貯蓄や投資の役割が説明されてゆきます。
 章のタイトルはすべて逆説です。お金に価値がある場合、ない場合、お金の先にある価値を生み出すのは労働、生産であること、貯蓄は投資に回ることで社会的な意味をもつことが説明されます。
 このあたりは、授業の導入の問いかけのスタイルに活用できるでしょう。
 後半の2つの章では、お金にまつわる社会問題が解かれます。格差、年金問題、財政赤字と持続性、貿易赤字、円高・円安などが登場します。
 小説スタイルなので、ずばり結論が書かれているわけではないので、もし活用する場合は、課題の部分のやり取りをピックアップして、参考にしながら授業に生かすとよいと思われます。
 なお、最終章は、ボスと投資銀行の女性との謎解きです。

④感想
 この本、購入して紹介するかどうかで迷いました。
 これまでこのコーナーで紹介してきた経済学者が書いた教養小説風のものはあまり成功しているとは思えなかったからです。特に、大人が子供に教えるという構図のものは、著者の言いたいことを上から目線で語るスタイルなのであまり気乗りがしません。ちなみに、この本は、著者の前著『お金の先には何がある』の小説版になっています。
 正直、読後感としては、その迷いは当たってしまいました。小説としてのレベルもそうですし、お金に関する経済的な説明や課題へのアプローチがゆるいところが目につき、記述の正確さを求めるとするとどうかな、と個人的には感じました。
 それでも紹介したのは、一つは、著者が某社の「公共」の教科書に参加していること、投資銀行というリアルな世界の経験者からの発言であることへの興味です。また、なにより昨今の投資教育ブームでのハウツーものと違い、本のタイトルが語っているように、投資の社会的意味をきちんと述べていて、そこの部分に共感したことがあります。
 この本、15万部を超えるベストセラーになっています。アマゾンの評価なども絶賛が多いのですが、それに惑わされず、興味関心があったら、先生方ご自身が手に取って判断されるとよいかと思います。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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