①どんな雑誌か
 斜陽と言われている総合雑誌の代表二誌です。ほかに、総合雑誌には『文藝春秋』がありますが、授業に使うことは少ないと思われるので今回は除外してあります。

②どんな内容か
 このコーナーで紹介するきっかけは、『世界』がリニューアルされたことです。編集長が昨年10月に女性になりました。堀さんという方ですが、その方が新聞のインタビューで、「自分自身も、「世界」のよい読者ではなかった」と言っているのに注目したことです。
 リニューアルの1月号では、2つの特集、一つは「ふたつの戦争、ひとつの世界」というタイトルでパレスチナ、ウクライナ戦争を特集しています。もう一つは「ディストピア・ジャパン」というタイトルで桐野夏生さんのインタビューやジャニーズ問題など日本社会の問題を扱っていて、12月号と比べてずいぶん、柔らかくなり読み物的なエッセイや論文が目立ちます。
一方、『中央公論』の1月号は、「独裁は選挙から生まれる」という特集で、アメリカ、台湾などの選挙を扱っています。また、AIと民意、投票率の世界的な低下、くじ引きで政治に参加するベルギーのルポなどが掲載されています。

③どこが役立つか
 総合雑誌は、新聞と違い、解説や長文のルポなどが掲載されているので、じっくり使えるネタを探したり、問題を考えたりするのに適しています。
 新聞には毎月10日前後には、両誌の広告が掲載されるので、ちょっと注目しておき、面白そうな特集や記事があったらピックアップしておくと良いでしょう。
 今回紹介した1月号では、『世界』では、教育を巡る武田砂鉄氏によるインタビュー、ウクライナ戦争の現状と展望を分析した松里公孝氏の論文が直接、間接的に参考になると思います。
 『中央公論』では、世界的な投票率の低下を分析した松林哲也氏の論文が選挙を扱う時、日本の主権者教育での道徳論的な流れに対する冷静な一撃になると思われます。また、ウクライナ戦争に関しては、鶴岡路人氏の「支援疲れ」からの分析があるので、松里論文と比較すると同じ現象に対するアプローチの違い、両誌の違いが浮かび上がって参考になるでしょう。

④感想
 異例な紹介をしたのは、非常勤で出校している学校の準備室の書棚に古い『世界』が処分されずに残っていたからです。
 かつては、高校の社会科準備室には教科予算で『世界』を買って読むという雰囲気があり、みんながPCの前に座り、中途半端なオフィス状態になっている現在とはちがっていたなというノスタルジックな動機がありました。
 もう一つ、現役の時に、学校図書館の予算が削られたので、生徒が読まなくなっている『世界』と『中央公論』を止めたら良いかと司書の方からの相談をうけたことを思い出したことも動機になりました。
現在、『世界』は公称4万部、『中央公論』は約2万部が発行部数で世論への影響力は大きく低下していることは事実でしょう。一方『文藝春秋』は一桁違いの40万部以上発行されています。
総合雑誌の読者は圧倒的に男性が多く、特に『世界』の場合は団塊世代前後の公務員、教員が多いという数字が岩波書店のHPにありました。
『世界』の新編集長堀さんの「女性の読者に身近に置いてもらえる、カバンに入れてたずさえてもらえるように」という方針は、目次で登場した44名中20名が女性の書き手や対談者であるということからみて、なかなかの健闘ぶりかなというのが今月の印象でした。
 両雑誌とも、経済に関する論考が一月号にはなく、ビジネス雑誌との棲み分けが進んでいるのかとも思いました。
 ちなみに、紹介者は最近先祖返りで、『世界』を結構よく購入するようになりました。『中央公論』は特集や書き手を見て時々です。『文藝春秋』は芥川賞(最近だと、市川沙央さんの「ハンチバック」)の時に購入して、あとは図書館で見ることにしています。
ちょっと思想調査のようになってしまいますが、ネットワークのメンバーの方々はどんな雑誌を手にしているのでしょうか。興味深いところです。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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