①どんな本か
 男女共同社会参画基本法があり、内閣府に男女共同参画の特命大臣がいるにもかかわらず、ジェンダーギャップ指数では先進国最下位の日本の現状と課題を、世界との比較と実証経済学から切り込んだ本です。

②どんな内容か
 序章、本文8章、終章の全10章で構成されています。
 序章では、ジェンダー格差の現状と経済学からのアプローチの方法を述べています。特に実証経済学の方法、因果推論の方法がここでは詳しく紹介されています。
 最初の二つの章は女性の労働参加がテーマです。 
第1章は、「経済発展と女性の労働参加」で、これまでの女性の労働参加の歴史と家事労働、経済成長と女性の労働参加の関係が分析されます。
 第2章は、「女性の労働参加は何をもたらすか」で、家庭内交渉力、児童婚の問題、家庭内暴力が取上げられます。ここでの事例はアジアやアフリカです。
 次の二つの章は歴史的な分析です。
第3章は、「歴史に根づいた格差」、第4章は、「助長する「思い込み」」と、歴史的な格差を発生から現代まで追いかけます。そのなかで生まれたステレオタイプが与える影響、それを突破したロールモデルの重要性、クォータ制の導入による影響が実証的に分析されます。
 続く四つの章は家庭と女性の話になります。
第5章「女性家庭に縛る規範とは」 、第6章「高学歴女性ほど結婚し出産するか」、第7章「性・出産を決める権利をもつ意味」、第8章「母親の育児負担」と、結婚、出産、育児とジェンダー格差の現状と課題の提示が続きます。
 終章では、ここまでの総括として、「なぜ男女の所得差が続くのか」のタイトルで、格差の原因を学歴、キャリアの中断、差別という、三つの経済学からのアプローチで再論して課題を再確認した上で、賃金以外の要因、心理的な要因も重要であることを述べてゆきます。

③どこが役立つか
 教科書にも登場するジェンダー問題ですが、教科書の記述の背後にある具体的な事例を知っておくために活用できるでしょう。
 また、「実証経済学は何を語るか」のサブタイトルにあるように、ジェンダーギャップを研究してきた実証経済学の知見を、巻末に掲載されている参照文献、用語解説を参照することで、その概略を知ることが出来る本です。
 特に、日本の問題だけでなく、先進国での状況、途上国での深刻なジェンダー問題を対比させながら、この問題を考えることが出来る本です。その点では、先に紹介した『入門 開発経済学』とリンクして読むとよい本かもしれません。

④感想
 ノーベル経済学賞にジェンダー経済学の研究者クラウディア・ゴールデンさんが受賞して、その著『なぜ男女の賃金に格差があるか』(慶応義塾大学出版会)が翻訳出版されています。
 紹介者はこの本も読んでみましたが、名門女子大の卒業生を追って分析をしているゴールデンさんの本より、ここに紹介した牧野さんの本の方がコンパクトでありながら幅広く問題を扱っていて、私たちが授業で扱うのには手頃と感じました。
 ただ、ジェンダー問題を授業のどこで焦点化して扱うか、差別問題か、それとも労働問題か、総合的であるが故に考えなければいけないなと思いました。このあたりはネットワークの部会で検討してみたい課題です。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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