出挙と金融  (コラム記事から拾った「捨てネタ」第1回)
執筆者 篠原 総一

 「経済は教えにくい」と思い込んでいる先生方、生徒の生活感覚で捉えられない概念、理論、仕組みを教える時、教科書に出ている内容と説明の順序を愚直に守り通しておられませんか。
 こんなとき、ほんのわずかだけ教科書から離れて、どんな生徒にも「なるほどそうか、感覚でわかるぞ」と思わせるようなエピソードや例を投げ込んでやるだけで、「経済も教え易い」科目になるのではないでしょうか。いわゆる「捨てネタ」を上手に使うというやり方です。どんな豪速球投手でも時には変化球も混ぜなければなかなか勝てないようなものです。
 そんな「捨てネタ」の紹介を、今月から何回か続けてみたいと思います。
今月は、東京証券取引所のメールマガジン『TSE教育ホットライン』から拾ってみました。

歴史を遡って証券市場を見つめるという連載コラムの第六回の冒頭に、こんな歴史の紹介文がありました。
「金融とは簡潔に言えばお金の貸し借りのことですが、日本には古代から出拳(すいこ)と呼ばれる制度が存在しました。これは農業のための金融ですが、そもそも農業は、収穫のための長い育成期間を要する産業であり、収入のために先行して支出を続けることになります。
つまり収入でその後の支出をカバーできない場合や、最初の収穫を得るまでの間に資金が必要となる場合など、金融は農業に欠かせない仕組みでもあるのです。……」

 Vol.365「連載第六回「歴史の中の市場と証券」」|なるほど!東証経済教室 (jpx.co.jp)

 出拳の制度とは、古代、農民へ稲の種もみや金銭・財物を貸し付け、利息とともに返還させた制度のことですが、上のメルマガ引用文から、「稲の種もみを春に貸し付け、それを収穫後の秋に利子をつけて返す」という農業金融がなければ古代の農業は成り立たなかったことに気づくことができます。
 さらに言えば、律令時代の経済の根幹は農業、その農業が「利子付きの貸し借り」という金融がなければ成り立たないほど金融の役割は大きかったということです。
 ただし、古代経済では金融市場が成り立っておらず、稲の種もみを自主的に貸し出すだけの余裕のある農民も限られていた、だから、農業を回していくために政府が「金融の貸し手」の役割を果たしていた、という解釈も成り立ちます。
 
 経済の仕組みや制度の学びの本質は、なぜそれが社会のなかで必要なのか、という問いかけにあると私は思っています。
金融(=資金の貸し借り)に関しても、「誰が資金を借りるか」ではなく、「誰がどのような理由で資金を借りたがっているか」という学習から始めて、そこから直接金融、間接金融を通した資金の流れの意味などにひろげてゆくと、教科書で取り上げる項目も、生徒が「なるほどそうか、わかったぞ」という「腑に落ちる」深い学習につなげられるのではないでしょうか。

 なお、金融は資金の貸し借りですから、「誰がどのような理由で資金を借りるか(資金の需要))」を見ると同時に、「誰が、どのような理由で資金を貸し付けるか(資金の供給)」が肌感覚でわかるような実例も用意しておくとよいでしょう。

 *金融機関や業界団体などから、多くの経済教育に関わるメルマガが配信されていますが、先生方がそのすべてに目を配ることは大変すぎます。
そこで経済教育ネットワークでは、これから、先生方の役に立ちそうなメルマガ文、エッセー、データなどを見つけるたびに紹介してゆきたいと思います。今回はその第1回目です。
経済教育ネットワークのホームページでもシリーズとしてまとめて石田慈宏氏(東京証券取引所金融リテラシーサポート部)の執筆による『渋沢栄一と東京株式取引所』と『歴史の中の市場と証券~証言市場について歴史を遡って見つめる~』の二本を論文・資料のページに掲載しています。

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