①どんな本か
海運経済学を専門にしている著者が、コンテナを通して現在の世界経済の動向を読もうとする本です。
また、物流という観点から日本経済の将来の課題を読み解こうとする本です。

②どんな内容か
大豆を事例として、コンテナ輸送の実際を紹介した序章にはじまり、全6章で構成されています。
第1章では、「コンテナの動きでなぜ世界経済が分かるか」のタイトルで、コンテナ海運の全体像がざっくりと紹介されます。
第2章がメインになります。ここでは、コンテナとは何かから始まり、どこで造られだれが保有しているか、大きな航路、主要な港はどこか、どんなコンテナ船の会社があるか、何がどのくらい世界で運ばれているかなどコンテナ経済を巡る実態が紹介されています。
第3章は「海運物流・コンテナ輸送はどう発展してきたのか」で、コンテナの歴史が扱われます。
第4章では「今世界で起きている海運の問題」として、コロナによる物流の変調、サプライチェーンの動き、貿易戦争による物流の変動などが扱われます。
第5章、第6章では、「海運から読み解くこれからのビジネス」「今後、コンテナ船は」で課題と展望が書かれています。

③どこが役立つか
経済の授業だけでなく地理の授業で使える本です。
日本の輸出入のうちコンテナ輸送で輸送される割合が40%であること。
世界各地の港湾で扱われているコンテナは約8億個あるのに対して、日本の港では約2000万個でしかないこと。
そのコンテナの90%以上は中国で生産されていること。
インバランス問題といって片道は空のコンテナを運ばなければいけない問題があり、日本から中国やアメリカへは空のコンテナを運ぶケースが多いこと。
コンテナ船がスエズ運河やパナマ運河を越える通行料金は一回約50万ドルであり、支払いはSDRであることなどなど、興味深いデータやエピソードが満載です。きっと、授業のネタが拾えるでしょう。
航空貨物、鉄道貨物、2024年のトラック輸送問題など、物流は表には登場しないけれど経済にとっては重要な役割があること、サブタイトルにある「経済の血液はこの箱が運んでいる!」という実際が具体的にわかる本になっています。

④感想
日本の港の地位低下が時々報道されていますが、この本を読むと予想以上に日本の港の扱い量の少なさにびっくりします。
ちなみに、ベスト10には上海をトップとして中国の港が7カ所を占め、中国以外では、シンガポール、釜山、ロッテルダムがかろうじて入っています。日本は東京港がトップで46位です。
これに関しては、「日本が巨大な工業製品の輸出国」であるという昭和の時代の社会科の教科書に書いてあった認識をアップデートすることが求められる」という本書の指摘(p257)は、昭和の頭で生きている紹介者には痛い記述でした。
逆に、この現実を押さえたうえでの今後の世界のなかの日本経済のあり方を考えさせる授業などがあってよいなとも思いました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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