①どんな本か
本メルマガでも紹介した『経済視点で学ぶ歴史の授業』の著者が、中学校歴史の授業をオーセンティックな学びの視点から取り組んだ授業提案とワークシートを組み合わせて作った授業書です。
オーセンティックとは、アメリカの教育学者ニューマンが提唱した、「重要であること、意味のあること、価値のあること」の三つを統合した概念です。
②どんな内容か
全体は大きく二部にわかれています。
前半の第1章は理論編で、「オーセンティックな学びをとりいれた授業作りの4つのポイントが示されています。
4つのポイントとは、カリキュラムづくり、単元・パフォーマンス課題づくり、授業・発問づくり、全員に力をつける(誰一人取り残さない)の4つです。
それぞれ、目標としての良き市民の条件、オーセンティックな学力の条件とそれに基づく授業構成のヒントなどの理論やチェックポイントが整理され、体系的に提示されています。
後半の第2章は、古代から現代まで22の単元での授業例とワークシートの提案です。
内訳は古代4,中世・近世が9、近代・現代が9です。
各単元には、単元のねらいや課題設定のねらい、単元の位置づけ、パフォーマン課題、授業での問い、指導助言による授業の流れなどがワークシート共に示されています。
③どこが役立つか
第1章の理論編では、オーセンティックの授業づくりのポイントが整理されていて、これを読むことで自分の授業づくりのレベルを振り返ることができます。その意味では、この部分は新人がはじめて授業作りをするためというより、すこし授業になれてきた先生方やベテランの先生方に、リトマス試験紙のように効く部分かもしれません。
実践的には、社会科の資質・能力を4段階に分け、それに基づき発問を類型化したところが役立つでしょう。
また、授業のユニバーサル化の指摘も特別支援教育に造詣が深い著者ならでは、の部分です。
第2章の実践編では、それぞれの問いを吟味することで、実際の授業でさらにどう問いをなげてゆくか、そのヒントが得られるでしょう。
④感想
恥ずかしながら、紹介者はオーセンティックな学びという言葉を知らないでここまで来てしまっていました。
改めて本書の前半を読むことで、そういうことなのかと理解しました。これは感謝です。また、日常の授業を行いながら、ここまでまとめた著者の努力と力量に驚嘆しています。
河原和之先生の推薦文にもありましたが「梶谷歴史教育」が開花しつつあるといえるかもしれません。
一方、後半の授業に関しては、オーセンティックな学力の要素に「学問に基づく探究」とあるのですが、参考文献を見ると、歴史研究者でない一般向けの本があがっていて、その点は気になりました。
それが、紹介者からみると、問いの質に影響している部分も散見されて、歴史を理解するためのベースとなる標準的な研究書をもとにした時代理解がもう少し求められるかなと感じました。ここは課題かもしれません。
なお、梶谷先生は、好評だった昨年に引き続き、今年も「夏休み経済教室」に登場していただけることになっています。乞うご期待です。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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