①どんな本か
・ネット世界で話題の経済学者(とひとまずこう表現しておきます)である成田悠輔さんが書いたベストセラーの新書です。
・現代社会を覆っている「分厚いねずみ色の雲」を気鋭の学者がアルゴリズムで快刀乱麻にした本と言ってよいでしょう。


②本の内容は
・テーマの中心は選挙ですが、選挙だけでなく民主主義全般、現代社会の問題を総体的に扱っています。
・「はじめに」のところで、要約があるのでそれにしたがって紹介すると、
 今世紀に入って20年、経済をみると民主主義的な国ほど経済成長が低迷している。民主国家は失敗している、劣化していると言って良いというのが最初の診断。
 では、そんな劣化した民主主義に対してどんな対処の方法があるか。著者に言わせると三つ。
 一つは、闘争。ここでは選挙制度の再デザインの検討がされます。
 二番目は、逃走。政治制度を商品化、サービス化してしまえという主張。また、既存の主権国家以外の場所に逃げるという手もあることが紹介されます。
 三番目は構想。ここがメインの主張部分で、無意識データ民主主義が主張されます。これは、エビデンスに基づく目的発見とエビデンスに基づく政策立案ができる社会で、選挙民主主義と知的専制主義とデータによる意思決定の融合の社会とのことだそうです。
 22世紀は無意識データ民主主義の社会になるだろう、するべきだ、それは革命になるだろうというのが著者の宣託です。


③どこが役に立つか
・冒頭に出てくる「若者が選挙にいって政治参加したくらいではないも変わらない」という著者の啖呵をどう吟味するか、それをしてみたい先生向けの本です。
・第2章「闘争」の選挙をいじるの箇所が、主権者教育、有権者教育に関心のある先生には反面教師として役立つはずです。
・第4章「構想」の、民主主義はデータの変換であるとして、アルゴリズムを使って民意を自動化しようとする箇所、ここは著者の研究テーマの応用部分であり、成田さんが何をどう取組んでいるかを知るには良いでしょう。
・先生だけでなく、この種のデータサイエンスに興味を持っている生徒にこんな本があるぜと紹介するのにも手頃な本かもしれません。


④感想
・ベストセラーになっている本はあまり手にしないのですが、紹介者も選挙をテーマにした授業を組み立てたことがあり、手に取りました。
・一読。面白いけれど…、という感想です。著者は麻布高校の出身だそうですが、麻布のような学校にはいるよなあこういうタイプというのが率直なところ。アンファン・テリブルの一人ですね。
・素人の床屋政談という批判もありますが、テーマも手法も検討の価値ありです。本人もそんな批評がくるのは十分分かって書いているでしょう。
・22世紀の政治家はネコになるという予言がありましたが、紹介者の住む東京ではネコが政治家になりました。予言はすでに当たっている。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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