①どんな本か
・メルマガ4月号で紹介した「シリーズ歴史総合を学ぶ」のその②です。
その①はこちらです。
・サブタイトルの歴史叙述では、日本史関連の多くの事例が紹介されています。その事例をどう授業で扱ってきたかに関してもふれていますが、ウエイトは著者成田さんの専門である歴史叙述に傾斜した本です。
②本の内容は
・腰巻きによる紹介では「多様な資料からなる歴史叙述を吟味し、自ら歴史実践を行う」という課題の夏休み集中講義で5時間分の授業展開がされるというスタイルで書かれています。
・午前は、「歴史叙述と歴史実践」のテーマで、1時間目は、ジェンダー史をとりあげて歴史叙述と歴史実践が紹介されます。
・2時間目は、明治維新の歴史像というタイトルで明治維新の歴史叙述と歴史実践が紹介されます。
・午後は、「「歴史総合」の歴史像を伝える」というテーマで、3時間目「近代化」、4時間目「大衆化」、5時間目「グローバル化」の三つの課題でのそれぞれの歴史像が紹介されます。
・3時間目の近代化では福澤諭吉、男性啓蒙家、森鷗外などが取り上げられています。
・4時間目の大衆化ではイプセン、身の上相談、小津安二郎、市川房枝などが取り上げられています。
・5時間目のグローバル化では、高度成長のなかの女性、マクドナルド化、村上春樹の小説などが取り上げられています。
・最後に、戦後歴史教育と歴史叙述の関係が再度考察されるという構成です。
③どこが役立つか
・公民の教員にとってはグローバル化の部分の時代が現代に近いので直接役立つでしょう。マクドナルド化や行動経済成長のなかの女性などは「公共」の教科書に登場してもおかしくない事例です。
・教育学に関心のある先生にとっては、戦後の歴史教育の歴史、特に歴史教育者協議会のメンバーたちの実践をあらためて確認して、その蓄積をどのように現代に活かすのかを考える手がかりとなるでしょう。
④感想
・正直読みやすい本ではありません。構成がアンバランスです。
・歴史叙述の事例と歴史教育の関係では、一対一で対応している部分、例えば、明治維新の箇所などは良いのですが、その他の箇所は著書成田さんの関心で取り上げられているので、教育という点ではこれがどう実践されていたのという点では非対称で、疑問が生じる箇所もあります。
・にもかかわらず、取り上げられている事例を手がかりに、もしこれを公共の授業で扱うとするとどんな形になるだろうかと考えてみるのも面白いと思いました。
・ユニークな事例では、小津の戦前の映画や村上春樹の『ねじまき鳥ロロニクル』などが取り上げられています。
・紹介者はこの本に触発されて、『ねじまき鳥』を久しぶりに再読してしまいました。小説的な面白さと同時に、村上が抱えている闇、記憶の伝承、戦争責任、新自由主義の危うさなどが昔読んだ時より一層切実に感じました。
・でもこれをどう授業に作り上げるのか、ちょっと想像がつきませんでした。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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