①どんな本か
・慶應義塾大学経済学部で実際に入試問題を作成したり管理したりしてきた元教授の著者が、日本史、世界史の入試問題づくりのノウハウ、特に思考力・判断力・表現力を評価する問題作成の実例を紹介した本です。
・くわえて、共通テストの試行問題を俎上にあげて、その問題点を鋭く指摘しています。


②本の内容は
・大きく二部に分かれています。
・第1部は、入試問題作成マニュアルのタイトルで、入試問題作成の基本方針の設定からはじまり、機械採点問題(マーク式)の作成、論述問題の作成、作成した問題のチェック、採点作業の実際までを解説をしています。
・第2部は、大学入学共通テスト試行調査の検討のタイトルで、プレテスト検討の意義、プレテストの問題点が分析されています。
 この第2部では、プレテストを、分量、問題構成、アクティブラーニングの設定、プレテストの入試問題の妥当性、歴史における思考力・判断力、入試問題のあるべき姿の6つの視点から詳細に評価を加え、全体として厳しい評価を下しています。また、改善案も提示しています。


③どこが役に立つか
・受験指導をしている先生にとっては、出題側のねらい、実際の作成プロセス、採点の様子など大学側の内情がわかり、適切な指導ができるでしょう。特に、採点プロセスの紹介は役立つでしょう。
・対象が歴史ですが、著者も言うように地理や公民の科目の問題評価にも役立つ内容です。
・高大接続改革で入試問題を変えることで高校の授業を変えてゆくという流れの中で、本当に「思考力・判断力・表現力」を伸ばすには、また、「主体性をもって多様な人々と共同して学ぶ態度」を見極めるにはどんな問題が必要か、入試問題を素材にしていますが、通常の授業や定期テストでも活用出来る考え方が提示されています。


④感想
・ここまで書いて良いのかというのが率直な感想です。リタイアした関係者だからこそのリアル感が満載です。
・著者も書いていますが、大学教員にとって「余分な仕事」であるけれど、片手間ではできない入試問題作成にこれだけのエネルギーを注いでいるということに敬意を表したい思いでした。
・今年の日本史の共通テストが問題になりましたが、この本を読んでいると宜なるかなという感想です。「2回のプレテストの問題は、経済学部の入試問題作成過程の草稿段階にも達していない」との著者の指摘は改善されていなかったということだったのでしょう。
・こんなテストを与件として受けなければいけない高校生が本当に思考力や判断力が身につけられるか、少々グルーミーな気分にもなりました。
・ネットワークでも入試問題のレーティングなどを行ったことがありますが、その時のもやもや感がこの本ですこし晴れた気分です。
・問題作成の方法は、 高校の先生だけでなく、中学の先生にとっても役立つ本ではないかと思います。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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