①どんな本か
・長く高校の先生をやって、現在は大学で教えている著者が、これまで実践してきた内容をまとめた本です。
・経済教育だけでなく、ひろく公民科の授業が扱われています。

②本の内容は
・序章と6つの実践を紹介する章となっています。
第1章は環境で、水俣病の授業です。
第2章も同じく環境で、谷津干潟の掃除を続けた森田三郎を扱った授業です
第3章は経済で、企業を扱った部分です。
第4章は政治で、田中角栄を中心に戦後政治を扱っています。
第5章は心理で、倫理での精神分析を使ったこころの授業です。
第6章は生命倫理の授業です。

③どこが役に立つか
・序章の授業づくりに関する姿勢の部分と第3章の経済部分がネットワークメンバーには役立つでしょう。
・序章での授業づくりに関する著者の主張を紹介しておきます。
 1)生徒の実態にあった材料と構成の授業:砂糖の入った野菜ジュースのイメージ
 2)内容は深く、理解ややさしく。そのための深い教材研究
 3)常に考える授業:その場で考えなければならない問いを授業の軸に
 4)予習・復習を前提にしない授業
 5)学力差の出ない授業
 6)プリントのシナリオ形式:1時間で完結しながら全体が連続する物語となることを意識する
・第3章の企業では、「西尾まんじゅう店」の起業から海外展開までの発展史を通して経済の概要を教える授業の紹介です。
・各章には著者が授業づくりで使った参考文献が掲載されています。それを見るだけでも著者の授業づくりにかけたエネルギーがわかります。研鑽のポイントは「新書、専門書を読むことにつきる」と著者は言います。

④感想
・著者はネットワークの経済学寺子屋のメンバーです。その著者の実践記録は、最近の授業書にないごつごつした内容の本です。
・「教師の実存が問題だ」と紹介者は言い続けていますが、なぜ、この授業をつくりあげたのかという問題意識にあふれた本です。例えば、第2章の森田三郎のケースでは、教室に平気でゴミをすてる定時制の生徒たちとの格闘のなかから生まれたことが書かれています。社会科の魅力や生命力を感じさせる授業づくりです。
・西尾まんじゅう店の話では、友人に、馬場君、猪木君、鶴田君、藤波君が登場。著者の趣味満載の話になっています。
・実践内容がやや古いのでその後の展開などをもっと書いて欲しい部分もありますが、著者の授業案や実践を検討する中で、さらに現代的な授業を作ることが次の世代の使命となるでしょう。
・やや高いので、著者曰く、「売れる本ではないので、図書館にでもいれてもらえると幸い」とのこと。
・なお、著者の専門は国際関係論で、博論のテーマは戦争の教え方です。今のウクライナ情勢をどう教えるか、聞いてみたいところです。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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