①どんな本か
・『私たちはなぜ税金を納めるのか』の著者、京都大学の諸富先生の、現在進行中の多国籍企業や富裕層による租税回避の動きを阻止しようとする、グローバル・タックスの背景、対応策、国際的合意への展望をコンパクトにまとめた本です。
・税金は国家単位ですが、グローバル化の現在、国家をこえて課税できるか、その理念と難しさがわかります。


②どんな内容か
・目次を紹介しておきます。
  第1章 資本主義とともに変わりゆく税制
  第2章 グローバル化と国民国家の相克
  第3章 たちはだかる多国籍企業の壁
  第4章 デジタル課税の波
  第5章 新たな国際課税ルールの模索
  第6章 ネットワーク型課税権力の誕生
  第7章 ポスト・コロナの時代のグルーバル・タックス
  終章 租税民主主義を問う
・第1章から第3章までが現状の紹介、第4章が課題提起、第5章、第6章が新たな国際的取組みの紹介、第7章と終章までが国際公共財の重要性と今後の展望になります。


③役立つところ
・第1章から第3章までの前半が授業で使えるところです。
・グルーバル化のなかで、国民国家単位の税制をすり抜けるように租税回避に走るGAFAやスタバなどの多国籍企業、政治家や富裕層などの実態が具体的データで紹介されます。
・特に、第2章で取り上げられている、所得税率が1億円でピークをうち、それを超える富裕層では所得税率の負担が下がるという日本の税制の現状を指摘(本書p21)している箇所は、累進課税による所得再分配効果が書かれている教科書とのギャップを知らせてくれています。
・第4章以降は、教室で取り上げるには専門的過ぎる部分が多いのですが、経済のグローバル化、デジタル化が税制にとどまらず、経済全体にどのような影響を与えているか、それに対する取組みの現状を知っておくことが、授業に厚みを与えることになるでしょう。


④感想
・中学生に財政を教えている際に手に取って、生徒に日本の税の実態はこんな状態なんだと説明しました。ちょうど、トランプ大統領がほとんど所得税を払っていないことが話題になっていた時だったので、生徒の注目度は高いものがありました。
・著者の諸富先生は、篠原ゼミの出身で、ネットワークの「夏休み経済教室」にも登場したことがある先生です。この本でも、「あとがき」に篠原先生が登場します。参照あれ。
・「あとがき」でも紹介されていますが、多国籍企業や富裕層の租税回避に関しては、志賀櫻氏の『タックス・ヘイブン』(岩波新書)がおすすめです。
・また、グローバル・タックスの考え方は、本メルマガ、7月号に紹介した、バナジー&デュフロ『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)にも取り上げられています。ちなみに、同書は、日経新聞のエコノミストが選ぶ2020年の経済書の第一位となっていました。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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