浅子和美・飯塚信夫・篠原総一編『入門・日本経済(第6版)』有斐閣

①どんな本か
・タイトル通り日本経済の全体像を概観したテキストです。
・1997年初版発行以来、時代の変化とともに改訂をおこなっていて、今回は5度目の改訂になり、東日本大震災からアベノミクスまでの間の日本経済の変容を評価するものとなっています。

②どんな内容か
・全体は序章と二部11章からなっています。章のタイトルを紹介すると以下のようになります。
・序章 日本経済を捉える
 (第1部 日本経済の軌跡)
 第1章 日本経済の歩み1:高度経済から低成長へ
 第2章 日本経済の歩み2:バブル経済、長期不況、日本再生への道
 第3章 日本経済の歩み3:東日本大震災とアベノミクス
 (第2部 日本経済の現状と課題)
 第4章 企業:グローバル化、IT化と企業システムの変化
 第5章 労働:すべての人が働きやすい社会に向けて
 第6章 社会保障:全世代型社会保障の追求
 第7章 財政・財政政策:政府の経済活動
 第8章 金融・金融政策:進化する金融システム
 第9章 貿易:貿易構造と貿易システム
 第10章 農業:グローバル化と農政改革
 第11章 環境:本格的な経済的手段の検討の時代へ
・はしがきには、「経済学の予備知識を持ち合わせていない読者にも、経済学の本格的な分析ができるように工夫した」とあります。その通りの内容で、現状と課題が明確に記述されているのが特徴です。

③役立つところ
・目次の構成を見て分かるように、中高の新しい学習指導要領の、日本経済の現状、課題の箇所のテーマの多くの部分をカバーしています。それぞれの学習課題の箇所で、参照しながら授業準備が出来る本です。
・特にオススメは、序章と第3章です。
 序章の第1節では「現代経済の仕組み」がコンパクトにまとめられていて、まずここで分業と交換の仕組みを理解します。
次に、第2節の日本経済の姿でその大きさをフローとストックから確認して、さらに、第3節で少子高齢化、格差の拡大、政府の失敗など日本経済の課題を確認することで、経済学習で生徒に伝えなければいけない骨組みを確認することができます。
・第3章では、リーマンショック以降のほぼ10年間の日本経済の歩みを概観することができます。特に、この間に推進されたアベノミクスがコンパクトにまとめられていてその功罪を考える手がかりを与えてくれています。ここは細かすぎたり、立場が最初から明らかだったりする、日本経済を論じる類書にくらべて、現場の教員にとって使い勝手が良く、有り難い部分でしょう。
・その他にも、金融や財政の章、労働や福祉の章など、授業準備をする場合に教科書の記述の背景にある制度や現状、課題をより詳しく押さえることができる箇所が多くあります。
・コラムも参考になります。例えば、金融の章の「キャッシュレス決済の拡大がマネーの量に与える影響」というコラムでは、スマホ決済の普及率の国際比較でなぜ日本は低いのかとか、ビットコインはマネーかという、生徒から出そうな疑問にこたえられるヒントが書かれています。

④感想
・紹介者はこの本の第4版を持っていたのですが、5版は購入していませんでした。今回第6版を手にとってみて、日々の変化や年々の変化だけでなく、4から5年ごとの変化を見ることが経済の全体像をつかむには有効なんだということを実感しています。もし第7版が出るとすると、そのテーマはコロナとその後の日本経済ということになりそうです。
・先月紹介した、アセモグルらの『入門経済学』のような理論から入るテキストと併用することで、裏と表(どちらが裏とか表ということではありませんが)の両面から、経済を教えるヒントがつかめるのではと感じました。
・この本に注文を付けるなら、情報化のような最新の動向のフォローがもうすこし欲しいところです。また、貿易だけでなく日本経済に大きな影響を与えている外国為替の問題も入れ込んでもらえると授業準備には有り難いところです。
・『入門経済学』でも書きましたが、まず練習問題から取組んで、そこから読み出すという読み方もありなのですが、それをやるには問題数がちょっと少ない章もあり、節に対応して一つは練習問題を設定するなどの工夫をするともっと使い勝手がよくなるのではと思いました。
・とはいえ、テキストをもとに自分で問いを立てて読み進めるというのが一番オーソドックスでオススメな読み方、使い方になるはずです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)