①どんな本か
・アメリカで最近ベストセラーになっている大学初年級向けのテキスト(『ミクロ経済学』と『マクロ経済学』)のエッセンスをまとめた本です。
・マンキューの経済学テキスト、スティグリッツのテキスト、クルーグマンのテキストなどベストセラーの入門テキストがありますが、その最新版と言える本です。
・著者のうち、アセモグルは、『国家はなぜ衰退するか』(ハヤカワノンフィクション文庫)で有名になったトルコ生まれのMITの教授です。レイブソンはハーバード大学の行動経済学者。リストはシカゴ大学の実験経済学が専門の経済学者です。
・著者三人のプロフィールでも分かるように、新しい経済学の領域の研究者たちが書いたテキストで、新しい知見が随所に取り入れられているのが特色です。

②どんな内容か
・本書の構成は大きく三部15章からなり、次のようになっています。
・第Ⅰ部「経済学への誘い」で、経済学の原理と実践など4章からなります。
 第Ⅱ部「ミクロ経済学の基礎」で、消費者とインセンティブなど4章からなります。
 第Ⅲ部「マクロ経済学の基礎」で、国の富など7章からなります。

③役立つところ
・このテキストの売りは「新しい」と「やさしい」というものです。はじめて経済学に挑戦しようとする先生は、「やさしい」という部分に注目して、経済学のイントロダクションとして読まれると、経済学の内容のエッセンスをつかむことができるしょう。
・「新しい」というところでは、各章にあるコラムに注目するとよいかもしれません。「選択の結果」と「データは語る」に近いコラムは類書にもありますが、「EBE(evidence-based-economics根拠にもとづく経済学)」のコラムは、まさにこの本の売りである「新しい」経済学の知見を反映しています。
・このコラムは章の冒頭の問いかけに対応して書かれています。例えば、第4章「利己的人間だけがいる市場は社会全体の幸福度を最大化できるか?」に対しては、「EBA根拠にもとづく経済学」では、実験結果を踏まえたyesという答えが書かれています。
・また、マンキューなどのテキストを持っている先生は、比較して記述内容の新しさを確認するのも、時間があれば挑戦してもよいかもしれません。
・本当に「新しい」を実感したいなら、今回紹介している『入門経済学』ではなく、『ミクロ経済学』と『マクロ経済学』の二冊を購入した方がオススメです。ただし、二冊買うと8,360円かかるだけでなくその厚さに圧倒されますが、中途半端な投資よりコスパはよいはずです。
・例えば、『入門経済学』では、「外部性と公共財」からはじまる部分以降、市場構造で展開されている「ゲーム理論」、ミクロ経済学の拡張での「情報の経済学」「オークション」などの面白そうな、授業でも紹介できそうな部分がカットされています。
・マクロ経済学の部分でも、アセモグルはこの「なぜ豊かな国と貧しい国があるのか」や45度線を使わなくなっていると指摘されている「反循環的マクロ経済政策」の部分などは収録されていません。
・ちなみに、この種の分厚いテキストを読むには、冒頭の導入エピソードを読み、本文はぱらぱら眺め、コラム、特に「EBA」の部分はしっかり読み、最後のまとめの部分でその章の内容を確認して、復習問題をながめて、わからないところなどがあったら逆に本文を振り返るというやり方をすれば、一週間もかからずに全体を「読む」ことができます。
・あとは必要に応じて精読すれば良いということです。

④感想
・ネットワークの野間先生が、今年テキストに『マクロ経済学』を採用したというお話しを聞いて、新しもの好きの新井くんは早速購入しました。ただし、上でも紹介したように『入門経済学』を注文してしまったので、失敗したなと反省中。
・アセモグルの『国家はなぜ衰退するのか』は、メルマガ7月号で紹介した『経済学を味わう』のなかのマクロ経済学の章(楡井誠氏執筆)で参考図書としてあがっていて、イモヅル式読書法でこの夏に読んだ本でした。そのアセモグルのテキストと聞いて、それならということもあり、今回の紹介となった次第。
・著者の一人、レイブソンは、2019年からそれまでマンキューが長年担当してきたハーバードの100番台の入門講座を引きついだ人だそうです。マンキューはその前年、「99%運動」に共鳴する学生に授業ボイコットされたことも報じられていて、時代の変化がテキストにも反映されているのかと感じました。
・マンキューの「経済学の10の原理」は、私たちの世代の教員にとっても親しみ深いものですが、これからはアセモグルらの「最適化」「均衡」「経験主義(実証)」の三つの原理の時代になるのか、興味深いところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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