執筆者 新井明

 外部団体が作成した教材を平常の授業で使うことも最近ではそれほど特別なことではなくなってきました。
 先日も、大学の教科教育の講義での中間レポートに、外部教材を使った授業案が登場し、その理由を聞いたら、「金融甲子園」に高校の時に参加したことがあり、それがきっかけという学生の回答でした。
 今回は、その種の外部教材(外部講師も含む)を使う場合のメリットや問題を考えてみたいと思います。

(1)外部教材あれこれ
 外部教材にはどんなものがあるか。ここでは教材だけでなくひろく外部との連携の授業まで視野に入れて話をすすめます。
経済学習に関して一番有名で普及しているのは「株式学習ゲーム」でしょう。東京証券取引所と日本証券業協会が共同で運営・提供しています。似たような形態では、「日経ストックリーグ」があります。こちらは野村證券と日本経済新聞の共同運営で、論文レポートが特徴です。
コンテスト形式で教材提供をするものには、金融知力普及協会の「金融甲子園」があります。また、ジュニアアチーブメントは、MESEによる「知の甲子園」などのコンテストや各種の教材提供を行っています。
そのほか、金融広報中央委員会、銀行協会、生保協会などの団体、みずほファイナンシャルグループ、VISAなどの民間企業や日本FP協会などの非営利団体からの教材提供や出張授業もあります。
また、金融庁、財務省、厚生労働省など各官庁のHPには子ども向け、学生向けのゲーム教材や学習教材がアップされています。出張授業では税の教室、財政の教室、社会保障教育、年金教育、消費者教育など目白押しです。
 経済以外でも、法曹関係の法教育、総務省などによる主権者教育などもあり、学習指導要領の解説本には、〇〇教育に関しての教材提供のなかで文部科学省のHPにあるもの一覧が掲載されています。

(2)主体はどちらだ
 中教審の答申のなかに「ひらかれた学校」が謳われ「外部資源の活用」という文言もでてくるなかで、この種の外部教材やコンテスト、外部講師を招いての授業などを導入する流れは今後やむことはないでしょう。
 問題は、これに安易に寄りかかることかもしれません。
 先の学生の授業案では、コンテストに参加する代表者をクラスで選び、さらに学校で選ぶという流れでの授業を構想していました。これでは「授業の内容がないよう」と親父ギャグで再考を指示しました。
 この学生と同じような発想で、外部資源の活用を考えているケースは結構あるのではと、ちょっと心配になります。たしかに、これらは教材として、それなりに時間と手間をかけて作られていて良く出来ているものも多いし、うまく活用すれば時間稼ぎにもなるし、言うことはないのですが何かが足りない。
 それは、授業者の主体性ということになるのかもしれません。
 企業のCSRでも、官庁の教材でも究極にはその提供団体の利害がからんでいるはずです。だから、財務省の教材(2014年メルマガ12月号のこの欄でオススメの教材として紹介しています)を使ったときに、生徒から「増税のための陰謀じゃないか」という鋭い指摘が出るわけです。その時の、私の回答。「そういうねらいを発見するためにこれに挑戦してもらったんだ」。

(3)教材の構造を分析する
 外部提供の教材や授業プランを活用するには、その教材の構造を分析することからはじまります。
 知識を問うだけのような教材もあります。経済の仕組みを見つけ出すように誘導するすぐれた教材もあります。経済と数学的な思考を組み合わせたユニークな教材もあります。それぞれの教材が何をねらいとしているのか、それが通常の授業で使えるものか、それとも課外の活動の方がよいかなど教材の構造分析、内容分析をしたうえで、使うことが必要だということは言うまでもないことかもしれません。
 また、コンテストや出張授業に関しても同じ事が必要になるでしょう。例えば、税の作文のように入賞のための必勝法があるようなものは本当に教育に役立っているのか、一度考えてもよいかもしれません。
 外部教材をうまく活用しながら、その先生の一本芯の通ったオリジナルな授業展開や工夫があることが理想ですが、それこそが授業におけるカリキュラムマネジメントの醍醐味と言えるでしょう。
 さて、却下した授業案、最終レポートでは学生さんがどんな分析やそれを使った工夫をしてくるか、楽しみです。

(メルマガ 119号から転載)

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