執筆者 新井明

夏の経済教室で紹介された多くのヒントから、今回は問いの立て方に焦点をあてます。
授業づくりの舞台裏に焦点をあわせようとした夏の教室。何人かの先生から生徒が授業に興味を示すための導入や、本論での質問が授業づくりには重要との指摘がありました。そのなかで、筆者が共感を覚えたのは、東京中学の講義で、河原和之先生(立命館大学ほか講師)が「チコちゃんに叱られる」というNHKの番組に問いの立て方のヒントがあると指摘されたところでした。

(1)「チコちゃんに叱られる」という番組
 「チコちゃんに叱られる」はNHKが総合テレビで今年4月から金曜日の夜に(土曜日昼に放送の地域も多い)全国放送している雑学クイズ番組です。5歳の女の子の設定のチコちゃんが、大人の回答者に意外な質問をして、答えられないと「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」という5歳児とは思えない啖呵を切り、解答を言う。それを受けて専門家が登場して解説をするという流れでつくられています。
 CG(コンピュター・グラフィク)で作られた主人公のチコちゃんの表情の変化や、声優の当意即妙のセリフ、なにより、そんなことを考えたこともなかったという意外な質問とその答えが面白く、人気番組になってきています。
 ちなみに、これまでの質問事項と回答は、wikipediaで検索できます。(ネット検索でも内容の確認に役立つという例です)
 筆者が一番へーと思った質問は、「プールに入るとなぜ目が赤くなるのか?」というものでした。もちろん、この手の意外性のあるものもありますが、「爪楊枝の頭のギザギザは何?」という質問もなかなか良い質問だと感心したものの一つです。

(2)チコちゃんの問いの質
 チコちゃんの問いの何が良いか。それはだれでも回答ができるものだからです。
いわゆる教科書的な知識の確認や、トリビアルな知識を問うクイズ番組ではなく、普段見落としている問いを発掘してきて、それを問うところが違います。回答者や街で質問を受けている人たちの中には「お手上げ」という人もいますが、何らかの答えや反応が出る問いであるという点が多くのクイズ番組とは違うところです。
知識番組では高学歴タレントが登場してそれを売り物にしているものもあります。そういう番組を教室にあてはめると、「先生ボクそれ知ってるよ」という優等生の発言が飛び交う教室になります。
そうではなく、だれでも考えて回答出来るという点で、河原先生流に言えば、ユニバーサル授業の入り口に置かれる、良い問いということになります。これは、ここから、もう一段深い学びにむかう可能性のある導入の問いといって良いでしょう。

(3)どんなところが使えるか
 一番簡単なのは、授業の導入の問いとして、同じ問いを教室で使うことです。生徒の中にも番組を見ている者もいて、それで盛り上がるかもしれません。
 次は、似たような問いを自分で準備してみることです。授業の導入やちょっとした息抜きのためにおもしろい問いができれば、その授業そのものを展開してゆくモチベーションが終える側も高まります。導入なしに、すぐに授業を始めるというのも授業展開のテクニックですが、やはり「はじめちょろちょろ」流が自然ではないでしょうか。
 ジャンル的には、生活習慣や民俗的なできごとで問いを探してみると意外に多くのチコちゃん流の問いがでてくるはずです。
 番組では、「お盆の盆って何?」とか、な「ぜ線香をあげるの?」とか、「なぜ日本では花火は夏に多いの?」など年中行事や習俗にからむ問いが結構あがっていました。

(4)発展させるために
 私たちが授業で問いを使うとき、導入のおもしろい問いをさらに展開部分で深化させる問いが必要になります。その発展方向は二つです。
 一つは、問いの質を深化させることです。それには、やはり知っているか知らないかではなく、「なぜそう考えるのか」、「どうしてそう考えたのか」という突っ込みがでてくるような問いを用意することが必要になります。このあたりは、もう番組では扱えない箇所です。
 もう一つは、問いの範囲をひろげてゆくことです。例えば、楊枝の頭の例では、日本の林業の現状や課題に目をむけさせて、そこから問いを作ってゆくことが考えられます。また、こけしという回答から、こけしの由来(番組でもこちらの解説はありました)に目を向けてゆくということもあります。貿易問題、六次産業化、環境保護、中小企業の後継者問題、限界集落、生命倫理など、広げてゆく方向は多様です。
 また、東西のうどんの味の違いはなぜという問いでは、江戸時代の流通に関する問いなどができそうです。
 「チコちゃんに叱られる」でほとんど扱われていないのは、政治、経済の領域の問いです。この分野で「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」という啖呵が切れるような、いい問いを見つけられれば最高ですね。

(メルマガ 116号から転載)

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