執筆者 新井明
経済の授業は、中学は中間考査以降、高校は二学期以降が経済の授業になるケースが多いと思います。そこで今回のヒントは、経済の授業を始める前にこころがけるとよいと思う取り組みを紹介します。この話は、金子幹夫先生(神奈川県立三浦初声高校)との対話のなかで得られたものです。
(1)もくじを読むと何がわかるか
もくじは本の全体像をつかむのに最もコンパクトに使えるものです。それをじーっと眺めると、何がこの本では書かれているかが浮かび上がります。
具体的に見てみましょう。中学のT社のものです。
1節が消費生活と経済(4)
2節が生産と労働(4)
3節が価格の働きと金融(5)
4節が政府の役割と国民の福祉(4)
5節がこれからの経済と社会(3) ( )の数字は小項目の数、という内容です。
これは、現在の学習指導要領の構成を踏まえたものだということがわかります。さらに、節の中身がさらに細かく分かれてゆき、この教科書では、( )内の数字を合わせると20あり、おおよそ20時間で経済を教えるのだなということがわかります。
(2)幹と枝葉を分けてみる
この大きなもくじでいえば、まず消費を学び、次に生産を学ぶのだな。その上で、市場の動きと金融を学ぶのが前半、後半は市場だけではすまない問題を政府が担うことと関連して財政を学ぶのだというころが理解できます。最後の部分は、大事だけれど、まあおまけかなということも分かります。
さらに細かくそれぞれの節の内容をみてゆくと、あれあれとおもうところがいくつか見えてきます。
例えば、この教科書では、1節の消費生活では、家計が扱われ、契約と消費者問題に飛び、消費者の権利という法的な部分がはいってきます。そして流通が最後に登場します。
2節は、資本主義経済が定義され、そこから大企業・中小企業、株式会社と続き、労働者の権利、現代日本の雇用問題と続きます。
3節となると、市場の仕組み、価格の働きがでてきて独占価格、公共料金まで学ぶと、いきなり貨幣と金融、金融機関、日銀の政策、景気と金融政策となります。
このあたりでやめておきましょう。
なぜ、あれあれなのかは、おわかりだと思います。幹の部分に枝葉がついていて、全体の流れや構造がみえなくなってしまっているのではないかということです。
もし、この教科書で勉強する中学生がいたら、道路を行くときに、まっすぐゆくのではなく、右を向き、左を向き、上も見て、下も見るということで歩かなければいけないということになりかねないということです。
(3)ストーリーを持つ
かつては自主編成と称して、独自の授業をする余地がありましたが、現在の学校でそれはなかなか出来ない相談です。
では、こんな、何でもあり状態の教科書をどう使いこなすか。ヒントは、ストーリーです。ストーリーとは、経済の仕組みを学ぶにはどんな流れで物語ができるかを考えると言っても良いでしょう。
身近な生活から経済を始めるのは前提として、消費者問題や流通まで同じレベルで扱うと、筋が見えなくなりかねません。消費を家計の経済行為と位置づけると、次は生産の担い手市場の理解となります。そこでは、労働問題までつっこんでゆくと、その先が見えなくなってしまう可能性がでてきます。大事だけれど、ちょっと置いておくという手もあります。
消費(家計)と生産(企業)をつなぐものは市場になります。ここで市場と価格の役割を押えると、一段落です。
次は、市場では解決できない問題や市場の条件をととのえることを担う政府が登場します。財政が登場するわけです。
このような経済理解のストーリーをもって、授業にのぞむと、大事な部分、なぜこれが登場してくるのかという位置づけをもって教えることができるはずです。
ちなみに、ヒントを与えてくれた金子幹夫先生は、もくじからストーリーを組み立て、そのストーリーのなかで生徒が楽しく取り組め、はっとして、そうなんだと分かるような、使える体験型授業の開発を目指しています。詳細は、夏の教室(東京会場)でお聞きください。
(4)残された問題
ストーリーを考えてもなかなかそこに組み込まれないものもあります。金融などはそれでしょう。
大事なことはわかるけれど、市場の理解から金融が登場する教科書のながれをどうストーリー化するか、これは簡単ではありません。
生活レベルでの金融から、マクロの金融政策までを一貫して扱うか、それとも分離して、財政政策と金融政策という形で扱うか、ストーリーにどう組み入れるか、これはエコノミストの意見も聞きながら、考えてみると良いでしょう。
また、枝葉だとした部分を幹と会わせてどう濃淡をつけながら教えるのかも課題になります。
今回のヒントは、課題がのこりましたが、経済の授業を始める前に、ぜひ、先生方の経済に対するストーリーを、もくじを見ながら考えてみてください。
(メルマガ 112号から転載)
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