宝くじを教材に

執筆者 新井明

 年末ジャンボ宝くじが販売されています。発売当日は、人気の販売場所では何千人と並んだそうです。季節がら、今回は宝くじを使った授業例です。

 ①まず、宝くじの期待値を計算してみます。
 期待値は、新しい学習指導要領では「数学B」で学ぶことになっていますから、すべての高校生が学んでいるわけではありませんが、考え方はそれほど難しくはありません。ただし、きちんと計算するのは大変なので、エクセルなどを使って計算させてもよいし、実際の宝くじではなくモデルで概略だけ紹介してもよいでしょう。また、ネット上では実際の宝くじの期待値計算をした結果が掲載されています。
 計算方法の概略は以下のようです。1等、2等…の各等の賞金額と当選確率を掛け合わせて、その合計を求めると購入額(1枚300円)に対してどれだけの金額が払い戻されるかが計算できます。結果は大体50%以下(47から49%程度)で、300円に対して150円弱の金額が期待値となります。つまり、どんなにあがいても、宝くじはお得ではない、ということになります。

 ②なぜ人は宝くじを買うのだろうか?
 ここからが授業の本番です。損をするのになぜ人は宝くじを買うのか、生徒に考えさせます。いろいろな回答がでてくることを期待したいところですが、それは教室の状況によるかもしれませんね。
 一応、外れたとしても大した損ではないからとか、あたった時の大きさ(ジャンボ)、夢(まさにドリーム)にかけてみようと思うというのが期待される回答としておきます。

 ③どんな人が宝くじを買うのだろうか?
 次に、期待が無くとも夢が大きければいいじゃないかと思うのはどんな人だろうかを生徒に聞きます。ここではクイズが良いでしょう。
 A:一流企業につとめて年収が1000万円以上ある人
 B:ローンをかかえて生活に余裕が無い人
 C:その他(生徒にいろいろあげさせても面白いかもしれません)
 宝くじを買いそうな人はどちらだろうと聞きます。
 これまでのくじに関する実証研究では、Bの人が買う傾向が強いことが分かっています。それはなぜなのかをあらためて考えさせてみてください。

 ④ここからどんなことがわかり、応用できるか
 宝くじがギャンブルだとすると、ギャンブルにはまる人、もしくは多少損をしても夢を追いたい人はどんなタイプの人で、どんな環境にあるかをまとめてゆきます。やはりこれまでの研究では、低所得や社会的に不利な立場にある人が多いということが分かっています。それだけでなく、同じような状況に置かれていても他人と比較して、自分が所得や地位で不利な立場にあるという意識を持っている人、つまり劣等感が強い人ほど勝負にでる可能性が多いんだそうです。本当にそうなのか、吟味をさせてください。

 さて、勝負をする人間とそれを回避する人間は、どんな価値観をもっているでしょうか。それがどのような経済的な意思決定と関連するでしょうか。ここからは行動経済学の領域になります。それに関しては順次、紹介してゆくことにしましょう。
 ここでは、次のような質問をして、③での質問と宝くじの共通性を確認してみてください。

 あなたは就活中です。どちらの仕事を選びますか?
 A:毎月20万円が確実に入るけれど、それ以上にも以下にもならない仕事。
 B:成果主義賃金で、成績が良ければ月の収入が30万円、悪ければ10万円の収入しかない仕事。成績の確率は50%(五分五分)である。
 自分だったらどちらを選ぶかを聞いてもよいし、日本の社会がどちらの方向になっているか、それが私たちにどんな影響を与えているかという話題に発展させてもよいかもしれません。

 なお、期待値に関しては、新井紀子さんの『生き抜くための数学入門』理論社YA新書、が数学の立場から、中高生向けに宝くじの期待値の計算をしています。学校図書館には入っている本でしょうから、参照してください。経済学関係では、例えば伊藤秀史さんの『ひたすら読むエコノミクス』有斐閣をはじめとして多数ありますので、どれでもお好きなものを手に取って参考にしてください。

(メルマガ 83号から転載)