執筆者 新井明

シミュレーションは、現実をモデル化し数値や関係を操作してその変化から法則や処方を学ばせる学習方法です。多くのシミュレーション教材が開発されていて、利用している先生も多いと思います。東証の「株式学習ゲーム」などもシミュレーション教材です。

 ところが本格的なシミュレーションをやるには、仕込みの時間や授業時間の確保が結構大変です。そこで今回のおすすめは「簡単シミュレーション」、いわゆる小ネタに相当するものです。

 金融の授業で私が毎回つかう「おはこ」のオークションです。ドイツのインフレやジンバブエのハイパーインフレの写真を見せて、どうしてこんなになるんだろうかと問題をなげます。そして、ちょっとこんな実験をやってみようと言って、教室を半分に分けます。最初は右半分です。生徒にお金(もちろん模造のもの)を配り、ファイルや消しゴムを競り落とさせます。その結果を記録させたら、左半分にお金を配ります。同じことをやります。そうすると、同じ品物なのに落札価格が全然違うことになります。生徒に、なんでこうなるの?と質問します。すぐに、「配ったお金の量が違う」と出てくれば正解ですが、逆に「今欲しいと思っていたからだろう」などといろいろな答えが出てくるのもまたよしです。考えさせた後で、からくり、つまり配ったお金の量が違うことを説明します。

 ここからが本格的な授業です。お金の量が違うとなぜ落札価格がちがってくるか。貨幣数量説を説明します。そのうえで、それを需要曲線と供給曲線で説明したらどうなるかを作業させます(需給曲線は学習ずみとします)。生徒は、そこで納得。写真のようになる原因を体験から学びます。ここから中央銀行の金融政策へはあと一歩です。

 今年もこの授業をやりました。次の時間、お金の収集を趣味にしている生徒が、実物のジンバブエの紙幣とドイツのレンテンマルクを持って来てくれました。それを生徒に回覧。これは実物教材です。その生徒とは、どんな方法で収集するのか、会話が弾みました。

 この教材、中学生にも、大学生にも通用します。大学生は「こんなこどもだましをやってと思い、最初は冷ややかだったが、実際にやってみて胸に落ちた」と書いています。あたまでわかっていても、やってみるとまた違った認識が得られるということでもあります。

(メルマガ 35号から転載)

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