授業の冒頭10分で生徒の心を動かすストーリー 
 執筆者 金子幹夫

1.はじめに
 先月号は、ストーリーとキャラクターを用いた経済学習の試作品をお届けしました。
 混乱するといけないので、あらためて経済学習におけるストーリーの必要性について整理し、今月の話題につなげていきたいと思います。

2.経済学習におけるストーリーの整理
 この連載では、一つの見方として「経済学習には2種類のストーリーが必要なのではないか?」ということを提案しています。
 1つ目は、教師が教科書の目次をみて、その順番をストーリーで語れるかどうかというストーリーです。
 2つ目は、毎時間の授業で、教師が抽象的な用語や制度の説明から脱却し、生徒が腑に落ちるまで理解できるように手助けするためのストーリーです。

3.目次をストーリーで語り共有する
 前者に「これだ!」という答えはありません。教師が目の前の生徒を見て、このように説明したらわかってくれるのではないか? というストーリーを構築し、それを生徒に示し、納得してくれるかどうかがポイントになるわけです。
「なぜ、今日はこの学習(例えば需要と供給、国内総生産、自由貿易・・・)をするのでしょうか?」という流れを教師と生徒が共有することで、生徒は安心して授業に参加できるわけです。

4.毎時間のストーリーが必要な理由(わけ)
 後者にも「これだ!」という答えはありません。教師が目の前の生徒を見て、こんなストーリーはどうかな? というものを創り上げていけばよいのです。では、なぜ授業にストーリーが必要なのでしょうか?
 ストーリーが必要な理由は「生徒の心を動かす」ためです。ほんの少しでもいいのです。グラッと心を揺さぶることで、何らかのメッセージを受け入れる体制ができると思うのです。
 心が動いていないと、どんなに心に響く言葉を贈っても、生徒は右から左に受け流してしまうのではないかと心配するわけです。

5.冒頭のミニストーリーはいかがですか?
 それでは、授業の中にどのようにしてストーリーを組み込むことが有効なのでしょうか? 一つの(案)として、冒頭の10分間におけるミニストーリーはいかがでしょうかということを提案したいと思います。
 先月号で取り上げました「犬とネコをペットとして飼う論争」という例が10分間のミニストーリーの例になります。
 
6.なぜ冒頭で?
 なぜ冒頭? なぜミニストーリーなのか?
 直前の授業でどのような学習をしていたのかわかりませんが、生徒たちは約10分の休憩時間で頭のチャンネルを「経済」に変えなければいけません。
 教師が「さあ授業を始めるよ」という言葉を生徒はどのように受け止めているのでしょうか? 全員が目を輝かせて「さあ、今日もたくさん勉強するぞー」と思っているという前提で授業を始めると、たいへんなことになってしまうことも少なくありません。
 
7.そこでミニストーリーです
 そこで生徒の心を動かす工夫が必要になるわけです。ヒントにしたのは義務教育で実践されている「道徳」授業の枠組みです。
 誤解を避けるために申しあげますが、経済教育を「道徳」のように教えるということを主張するのではありません。「道徳」の授業展開方法(枠組み)が参考になると言っているだけです。 いったい、どのような点が参考になるのでしょうか?

8.「道徳」の授業展開パターン
 義務教育における「道徳」には多くの読み物教材が用いられます。児童や生徒は、授業の冒頭で読み物を読み、そこで心を動かします。授業では、この心の動きを活用して先生が教えたいことを児童や生徒に言ってもらうわけです。
 授業の導入部分で心が動かないと、いくら立派な言葉を並べても生徒の心には届かないのです。「国語科」の授業でも文章の読解について学びますが、「道徳」の読解とは枠組みが異なるわけです。「道徳」は心を動かすために、冒頭の短い時間を使って文を読むわけです。
 ※ すべて「道徳」授業がこのように展開しているわけではありません。ここであげた  「道徳」の授業展開は、読み物教材を使った実践の一例です。

9.心を動かさないと用語や制度の説明になってしまう
 先月紹介しました「犬とネコをペットとして飼う論争」は、ストーリーにキャラクターを組み込んだものです。ここで、生徒の心を動かしたいのです。少し動くだけで、授業展開が大きく変わります。
 この手順を踏まないで、「希少性」、「トレード・オフ」、「機会費用」を用語を説明しても、すべての生徒が腑に落ちるまで理解するのは難しいと思うのです。

10. 腑に落ちるまで理解するということ
 生徒が腑に落ちるまで理解するというのはどのような状況のことをいうのでしょうか?
 学習内容を「解釈すること」がはじめにあげられます。この解釈したことを「他者に説明できること」が次にきます。自分の言葉で説明できるまで理解することが「腑に落ちるまで理解する」というところに近いものだと思います。
 生徒は、自分の言葉で他者に「説明できる」知識を組み合わせることで「論述する力」を身に付けていきます。試験が終わったら忘れてしまう知識ではなく、生徒の身につく学習内容を創るために、授業の冒頭におけるミニストーリーは、腑に落ちるまでの理解を実現させる役割を果たすと考えます。

11.二つのストーリーを考える春です
 もうすぐ新学期が始まります。
 みなさんは新しい教科書の目次を見て、どのようなストーリーを構想しますか?
 毎時間の授業で生徒の心を動かすためにどのような工夫を考えますか?
 その1つのヒントになればと思いお届けしました。 今月はここまでです。
                           

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