家族会議で経済学習
執筆者 金子幹夫
1.「ストーリーとキャラクター」とは言うけれど
先月号では、授業にはストーリーに加えてキャラクターが必要です、ということを書きました。そこでさっそく教材をつくろうとすると、すぐに次の2つの考え方をどのように両立させるのかという問題に直面します。
1つ目は、「どの教室にも通用する教材は存在しない」という考え方です。
2つ目は、先月取り上げました「授業にストーリーとキャラクターが存在することで生徒の理解が深いものになる」という考え方です。
この2つの考え方を両立させようとすると、各教室ごとにストーリーとキャラクターを設定することになります。先月号を振り返り「これは大変なことを書いてしまった」と思ったわけです。
2.試作品を創るにあたって留意したこと
とはいうものの、前に進まなければ問題は解決しません。次のように考えて作業を進めることにしました。
それは「どの教室にも通用する教材は存在しない」という前提に立ちつつも、教室の状況に合わせて改造しやすいシンプルなストーリーとキャラクターを設定するという考え方です。これでしたら、先ほどの2つの考え方を両立させることができそうです。
作業に入るために、もう一つ確認しなければならないことがあります。それは、作成する教材がどのような目的を持つのかということです。生徒がストーリーとキャラクターに夢中になればいいというものではないからです。
3.教材作成の目的
今回作成する教材は、これから経済学習に入るというタイミングで使うことを想定したものです。目的は次の2点を設定しました。
第1は、昨年の先生のための『夏休み経済教室』で取り上げられました「希少性、分業と交換、つながり」、そして「信頼、機会費用、効率と公正」に触れることです。この授業で、これから経済学習をはじめるための準備をするのです。
第2は、経済学習に必要な考え方に触れる中で、生徒が自力で経済学習の入口までたどり着くことを目指します。この経済学習の入り口は「市場経済の学習」です。生徒の力を湧き上がらせるためにストーリーとキャラクターが必要なのです。
4.生徒がいつの間にか考えていることは?
作成する教材は、生徒の話し合いが中心になります。はじめに役割分担をします。教師も生徒も、役割を担います。皆で、ある課題に取り組みます。その課題を考えはじめると、いつの間にか「希少性」、「機会費用」について考えているのです。
そして、気がつくと「つながり」、「信頼」、「分業と交換」を学習する入り口に立っているという教材づくりを目指します。
5.授業の展開
さっそく試作品を示したいと思います。示した後に、素材選びの理由を説明します。
授業展開は次のとおりです。
① クラスを4人前後の班に分けます。その班は家族だと説明します。
② 先生は各班に共通の保護者役です。班員は残りの家族を構成します。
1人ひとりの役割を2分で決めていきます。
③ 役割(兄弟姉妹、祖父母、保護者等々)が決まりましたら保護者(教師)が次のような台詞を言い ます。「この前、家族会議で話し合ったペットを飼う件だけど、基本的には反対だ。でもそのあとよく考えて、犬かネコのどちらか一匹だけ飼ってもいいかなと考えるようになった。家の広さや家計のこと、皆の生活を見ていると犬とネコの両方を飼うことはできない。皆で話し合い、どちらを飼うのかを決めてほしい」と。
④保護者役の教師は続けて「これから話し合いをしてもらうけれど、多数決を使わないでほしい。丁寧に話し合ってほしい」と指示します。
話し合いの時間は、7分とります。(7分間話し合う)
⑤ 7分後。結果が出ていてもいなくても、次のことを考えてもらいます。
(1)なぜ保護者は1匹だけといったのでしょうか? 理由を推測してください。
(2)子犬をあきらめることのマイナス面をあげてください
同様に子ネコをあきらめることのマイナス面をあげてください
(3)子犬(または子ネコ)を購入しようとするときに、重視する項目上位3つをあげてください
この(1)から(3)の回答をつくるのに10分とります。
⑥ 10分後、各班の回答を発表してもらい、教師はその回答を板書します。
6.経済学習のはじめに体験すること
ここで生徒は、これが経済学習のはじまりなのだという3つの体験をしてもらうのです。
第1は、家族には皆それぞれの生活があるから、ペットに費やすエネルギーには限りがあることです。エネルギーだけではありません。時間や費用も家の広さだって無限ではないことを、板書(先ほどの回答)で知ります。
第2は、1つの選択をすることは、他の1つをあきらめるという経験です。例えばネコを飼うとしたら、支払うのはペットショップへの代金だけでなく、もし犬を飼っていたら得られたはずの穏やかな時間も、ネコを選んだことによる「コスト」に含まれます。
第3は、信用とつながりを考えるということです。あたりをうろうろと歩いている犬やネコを捕まえて飼うというわけにはいきません。性格の問題や血統といったことも話題に出てくると思います。信用のない人と取引はできません。
ストーリーとキャラクターを設定して、生徒自身に経済学習の見方・考え方を言わせることで、用語説明中心の授業から脱却できるのではないかという提案です。犬やネコ、そして家族といったキャラクターの構成は、教師の手でいろいろと改造できると思います。
7.市場経済学習の前に立つ!
ここでは犬を飼うことにしたとして話を進めます。まずグループごと犬の名前を決めてもらいます。このあとに犬をめぐる様々な規制を経験してもらいたいからです。
名前を決めたら、登録が義務づけられている「飼い主登録」を行います。予防注射も接種しなければなりません。私たちが平和に暮らすために、様々な規制の存在を経験するのです。
さらに、もしも犬が病気になってしまった時のことを考えます。犬はマイナンバーカードを持っていません。
さあ、どこから学習を出発させましょうか? 生徒にとって見える部分から学習はスタートします。そして徐々に私たちの見えない部分のことを学ぶ準備を整えていくのです。
8.なぜ犬とネコなのか?
経済授業における冒頭部分の紹介は、いったんここで止めます。ここから先は、なぜキャラクターに犬とネコを採用したのかを説明します。
一番大きな理由は昔のテレビコマーシャルです。本稿の構想を考えている時、ある飲料メーカーによるビールのCMが頭をよぎりました。そのCMは、人気の女性歌手による歌をバックに、ペンギンが1人(一羽?)ボクシングの練習をしているというものでした。
このCMは、当時ものすごく話題になりました。そして、当時の評論家が、企業はコマーシャルに注目してもらいたかったら、動物を使うのだとコメントしたのです。
筆者は、この理屈がCMだけではなく、授業でも通用すると思ったのです。子犬と子ネコが登場するテレビCMは現在もたくさんあります。今でも注目度は高いはずです。もちろん、クラスの雰囲気によって、ハムスターとか、メダカとか、いろいろなキャラクターが設定できると思います。
9.つながりと信頼
今月号は、ストーリーとキャラクターを用いた経済学習の試作品を検討してみようという目的を持ってまとめてみました。犬とネコと家族というキャラクター設定を1つの手がかりに、皆さんと検討できればと思います。
ところで、この後はどのような展開が可能でしょうか? 教える順番は、生徒の眼に見えるところからはじめて、徐々に見えない部分の学習にすすめます。犬を飼うことで見えるものとしては・・・ドッグフード? リードや首輪? 犬小屋? そして飼い主の面々。
キャラクターたちの動きを一緒に想像していただけませんか? 今月はここまでです。
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