授業をストーリー化するだけでは足りないものがある?
 執筆者 金子幹夫
1.文献講読の先にあるものは?
 先月号は、本メールマガジンにあります「授業に役立つ本」における文献の選び方や読み方についての舞台裏を紹介しました。今月は、この文献講読の先にある授業づくりについて皆さんと考えてみたいと思います。

2.文献講読をもとに創った授業内容が生徒に伝わらない時
 授業を創ろうとする時に、文献からヒントを得て授業内容を構想する場面を思い浮かべてください。この構想は、生徒の状況に合わせて行いますが、「こんなにわかりやすく伝えたのに、なかなか生徒に伝わらない」といった経験はありませんか?
 この場面に出会った教師は、授業を振り返り省察をします。文献はきちんと精読したはずです。目の前の生徒に合わせて表現を工夫したつもりです。でも生徒には、その内容が伝わっていないようです。この状況をどのように解釈すればよいのでしょうか。

3.魔法を加える方法
 そこで、今月は文献講読をもとに創った授業内容が生徒に伝わらないという問題を考えるための糸口を見つけてみたいと思います。大きな問題ですから、一気に解決することはできません。授業づくりに向けてのヒント探しが今月の目標です。
 この目標に近付くための手がかりを見つけました。それは本メルマガNo.178にあります篠原総一先生の捨てネタシリーズの中にある一節です。
 そこには「(すぐれた捨てネタには)「『他人事のように見える一般論』を、一気に『自分と関わりがある経済、肌感覚で理解できる経済』に変身させてしまう魔法のような力がある」と書いてあります。糸口はこの文中にあると狙いを定めました。
 文献講読からネタのヒントを読み取り、それを「魔法のような力」のある教材として創り上げるにはどのような工夫が必要なのでしょうか? 次のように考えてみました。

4.ストーリーにもいろいろある?
 「魔法のような力」を持ったネタを作るためにはストーリーが必要です。
 ストーリーを構成しないまま経済学習を進めてしまうと、制度や仕組みの説明が中心になってしまい、教師と生徒の認識が大きくズレてしまいます。
 ここで筆者は、反省すべき点に直面します。その反省とは、筆者はこれまで「ストーリー」という用語をアバウトに使いすぎたというものです。
 今年度、本コーナーで筆者は「ストーリー」という用語を2回使いました。No.195では「(授業は)ストーリーをもたせた語りで『わかる』」と、No.196では「授業と授業との間にはつながり(ストーリー)があります」と書きました。
 同じ「ストーリー」という用語ですが意味が微妙に異なります。この違いについて言及していなかったのです。そこで、次のように整理してみました。

5.ストーリーを2つの種類に分けたとすると(1)
 経済教育にはストーリーが2種類必要だと思います。その2つというのは「大きなストーリー」と「小さなストーリー」です。
 1つ目の「大きなストーリー」は、教師が教科書の目次をストーリーとして語り、その内容を生徒と共有するというものです。
 どうしてこの共有が必要なのでしょうか? それは生徒が「なんで今日はこの学習をしなければいけないの?」という理由を理解することで、初めて生きた授業になるからです。

6.ストーリーを2つの種類に分けたとすると(2)
 もう一つの「小さなストーリー」は、本時において展開するストーリーです。
 経済学習を生徒に深く理解してもらうためには、授業において、生きている人間の行動をストーリー性を持たせて取り上げる必要があります。
 この思いがあって、筆者は本メルマガのNo.198で「人間像」を意識する経済教育について取り上げました。ところが、この原稿を再読しますと、人間が動くストーリーだけでは不十分だと気づいたのです。不足しているのは「キャラクター」という概念でした。

7.会ったこともない人の人生を語るということ
「キャラクター」とは具体的にどのようなものなのでしょうか? 学習内容とは一時離れますが、お正月の箱根駅伝がわかりやすい例になると思います。なぜ多くの人は箱根駅伝に夢中になるのでしょうか?
 その一つの理由に「ストーリーとキャラクター」の設定があると思うのです。東京の読売新聞社前から箱根までの長距離走を、順番や記録だけに注目して実況放送しても視聴率はあがらないのではないかと思うのです。
 テレビ中継では、多くの選手についてのエピソードが語られます。昨年はどのような走りをしたのか? その走りを超えるためにどのような1年を過ごしてきたのか? 選手を支える人たちとの間にどのような物語があったのかを伝えてくれます。
 私たちは、いつの間にか、会ったこともない選手の人生について語れるほどの知識を身につけます。気がつくと「頑張れー」と応援してしまうのは、1人ひとりの選手が持っているストーリーとキャラクターを知ってしまったからかもしれません。
 
8.文献講読と経済教育に戻ります
 そこで、授業内容が生徒に伝わらないという問題に戻ります。大きなストーリーで「なぜ今日はこの学習をするのか」という情報を共有します。次に各時間の授業でキャラクターが動くストーリーを描くことで授業内容を伝える糸口が見えてくると思います。
 ところで、教師は毎時間の授業でキャラクターを設定したストーリーを描ききれるでしょうか? 教師はストーリーを描くパワーを持っています。しかし、昨今の多忙化は、教師の持っているエネルギーを分散化させてしまいます。この問題を打破するためにはどのような工夫が必要なのでしょうか?

9.ネットワークには情報がいっぱい
 その一つの工夫がネットワークです。経済教育ネットワークもその一つです。授業案について悩みを抱えた教師と、授業案についていろいろなアイディアを持っている教師が集まる場です。
 定期的に開催されている部会、そして年に数回開催しています「先生のための経済教室」(春の教室は3月28日です)、さらにこのメールマガジンで多くの情報を共有したいと思います。

10.来月に向けての宿題
 そこで、本コーナーでも何らかの情報を発信することになるわけです。実際にどのようなキャラクターを設置してストーリーを構成することができるのかという試作を示すことで、この議論が活発になるのではないかと思うのです。
 そこで試しに(案)を作成してみよう! というのが来月に向けての宿題になります。しかし、この宿題ができるかどうか不安です。2月は28日までしかないことに気付いてしまったからです。 今月はここまでです。

Tags

Comments are closed

アーカイブ
カテゴリー