① なぜこの本を選んだのか?
紹介者は、かつて諸冨先生が書かれた『私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史』(新潮選書)を読み、授業づくりに活用しました。その諸冨先生の最新刊が出されたことを知って、迷わず購入しました。税に関する授業づくりの基盤を一層厚くすることができるのではないかと思い本書を選びました。
② どのような内容か?
「はしがき」では、「市民革命」を経験した国と経験していない国とでは租税観がどう異なるのかという問題が提起されています。
第1章は「私たちはなぜ税金を納めるのか」です。注目すべき記述は次の3点です。
第1は「納める」という用語です。「はしがき」では「住民は税を払っている」と書いています。そして本章では「納める」と聞くと,下から上に向けてのお金の流れを感じると指摘しています。なぜ章のタイトルを「税を納める」としたのでしょうか。問いを持ちながら読み進めることになります。
第2は税の種類です。私たちは,授業で税を教えるときに公共財やサービスの対価である税と政策手段としての税を区別して教えます。第1章では,政策手段としての税がいつ登場したのかが示されています。
第3は「大きい政府」と「小さい政府」です。この2つの政府では,どちらが経済成長しやすいのかについて示されている点に注目しました。
第2章は「税制の歴史的展開」です。注目すべき記述は次の3点です。
第1は、複式簿記が誕生した理由を知ることができます。税と深い関わりがあったことを紹介者は初めて知りました。
第2は、アメリカ二大政党制の歴史です。大統領選挙がある今年は、生徒から多くの質問が寄せられそうです。税負担を題材に二大政党制についてわかりやすくまとめてある本章で、知識の整理ができます。
第3は、世界大恐慌がなぜ起きたのかです。生徒に分かりやすく説明するためのストーリーがまとめられています。
第3章は「日本の税制の発展史」です。「公民科」教師で、あまり歴史を教えた経験がない方は本章がおすすめです。注目すべき記述は次の2点です。
第1は、魏志倭人伝です。諸冨先生は魏志倭人伝に記録されている税については「収める」という用語を使っています。他は「納める」です。これはなぜでしょうか。第1章での問いをここで受け止めました。
本文を読み解いていくと「国家が法律に基づいて全国統一的に課する税金の始まりは、『律令』の制定まで待たねばなりませんでした」という記述があります。ここから、一個人が他の個人からお金を集める場合には「収める」を使い、献上するという意味が含まれる場合には「納める」を使っていると読み取れそうですが、ここは諸富先生に質問してみたいところです。
第2は、大宝律令の時代、秀吉時代、江戸時代と、誰が誰からどのように税を集めていたのかを分かりやすく整理しているところです。
第4章は「これからの世界と税金」です。注目すべき記述は次の2点です。
第1は、新しいタイプの税金であるグローバル・タックスと環境税について取り上げているところです。
第2は、財源調達手段としての税金とは異なる税金が、いつころ、どのような理論を背景に登場したのか説明されているところです。
第5章は「税金を私たちの手に取り戻す」です。注目すべき記述は次の2点です。
第1は、納税倫理はモデル化できるのかというテーマです。経済学で代表的なモデルが紹介されています。
第2は、税そのものを歴史的に分析する中で「なぜ税金は変化するのだろうか?」という問いについての答えが書かれているところです。
第3は、自由落下法則です。ここから、私たちがなぜ税についての授業をしなければならないのかという理由を見つけることができそうです。
③ どこが役に立つのか?
2点挙げます。
第1は、税についての「見方・考え方」を示しているところです。
その中の1つに「単一税だけで全てを賄う税制はうまくいかない」という記述があります。本書はこの記述を繰り返し用いています。なぜ何度も書くのでしょうか。142ページにある「所得や賃金ベースだけに重い税金をかけていくのは単一税に近く、それはこの人口減少下の日本においては非常にきつい途だといえる」ことを言いたかったのではないかと読みとりました。諸冨先生に質問してみたいところです。
第2は、日本の歴史、世界の歴史と「税」について流れるように整理しているところです。
④ 感 想
迷わずに購入し、読み込んでよかったというのが率直な感想です。いろいろな知識がつながるという感覚を楽しみながら読むことができました。税そのものについての問い、税の歴史についての問い、税に対する心の持ち方に対する問いというように、問いの細分化ができたと感じています。
(神奈川県立三浦初声高等学校 金子 幹夫)
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