①どんな本か
有斐閣が始めた、大学生向けの教科書の新シリーズ「y-knot」の一冊で、タイトル通り現実から学ぶという点が特徴のテキストです。
②どんな内容か
序と三部構成をとっています。
序では、グローバル化の現状と国際経済学の対象、国際経済を学ぶことで何が役立つかを述べ、国境を越えた経済取引がおこる理由と、政策の影響を明らかにするというねらいが述べられています。
第Ⅰ部は、3章構成です。
第1章では、世界貿易の現状と新しい動向が具体的に紹介されます。
第2章ではグローバル化に対抗する保護主義の歴史とそれが台頭する背景、さらに現代の保護主義の新しい展開をこれも具体的に示してゆきます。
第3章では、企業のグローバル化が取上げられます。なぜ企業は直接投資を行うか、またそのパターンにはどんなものがあるかを自動車会社の例(トヨタ、日産、マツダ)で示してゆきます。また、日本に進出した外資系企業についても触れています。
第Ⅱ部は4章構成です。ここは理論的な説明部分です。
第4章でリカードモデル、第5章でヘクシャー=オーリンモデルとこれまでの貿易理論が紹介されます。
第6章は新貿易理論で規模の経済性と貿易、第7章はメリッツ・モデルとして新・新貿易論が紹介されます。
第Ⅲ部は4章構成です。
第8章で貿易政策の基礎(小国・完全競争)が、第9章で貿易政策の応用(大国・不完全競争)が解説されます。
第10章では多国間の枠組みとして地域統合、WTO、FTOが取上げられます。最終章の第11章ではグローバル化と格差の問題が取上げられます。
③どこが役立つか
三部構成のうち内容的に現場教員に役立つのは第Ⅰ部と第Ⅱ部のリカードモデル箇所、第Ⅲ部の最後の二つの章の箇所です。
第Ⅰ部は、すべて具体例で進みますから、現在の国際経済の動向と新しい現実を整理するのに役立ちます。特に第3章の事例はすべて具体的な企業が取上げられていますから、授業を進める際にリアルな事例として紹介できるでしょう。
第2章の保護主義に関しても、高校教科書ではリストだけがでてくる保護主義論を超える視点を持つことができるはずです。
第Ⅱ部のリカードモデルの解説は、少々面倒くさい記述ですが、丁寧に読めば教科書にあるリカードモデルの前提やその特徴を理解することができます。
第Ⅲ部の多国間の枠組みも、その困難性や新しい課題まで説明されているので、組織の説明だけではない理解が得られます。
④感想
実は、この本、国際経済の内容を理解するためというより、その構成が授業づくりの参考になるなという感想を持ったことが、オススメの理由です。
各章の扉にはクイズが二問だされます。解答と解説は次のページにあります。それをうけて、キーワードが示され、次に章の構成が図解されてゆきます。つまり、本文の構成が見える化されています。そして、本章の問いという形で、ねらいと課題が提示されて、本文が始まるという構成です。
本文の最後に、本章の問いに対する答えと、レポート課題、演習問題がつきます。
この本を手に取ったときに、なんと親切なんだろうと思いました。これはアメリカの分厚いテキストと同じ構成を簡約にしたもので、いかにも日本的かもしれません。
もう一つの感想は、事実と理論を分けた構成はいいなというものです。
高校までの教科書にも理論的なものは登場しますが、中途半端です。この本のように事実と理論を分けることで、理論は理論として正確にモデルとしての説明ができます。そこから考えると、高校までは理論を教えるよりは、現実の新しい動向を紹介してゆくことが必要なのかなという感想も持ちました。
このスタイルを高校の教科書に持ち込んだらどんな教科書がでてくるか、興味深いところです。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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