■(中学校) ICT機器によって公立中学校の社会科が変わる
執筆者 行壽 浩司(福井県美浜町立美浜中学校)
*タブレットで広がる教育の幅
生徒たちにタブレット端末が配布されたことにより、教育の幅が広がりました。
私が最も実感するのは、日本証券業協会が主催している「株式学習ゲーム」の導入時です。
資本金1000万円を用いて、実際の株式を買い、一日ごとに変化する株価を確認しながらチームで資本金を増やしていくゲームです。基本的には100日間のゲームであり、生徒たちは楽しみながら株式の売買を行っています。
このゲームは1996年から実施されているもので、目新しいものではありません。しかしこれを実施するには、これまでは高い壁がありました。
*タブレットで可能になる主体的な学習
公立中学校でこのゲームを実施するには、機器が不足していたのです。やりとりはインターネット上で行うため、教員はまずパソコン室を確保しなければなりませんでした。他のクラスとかぶらないように配慮し、またパソコン室と教室の移動時間を考えて授業を行う必要があります。これは大変な手間であり、普段の授業の中で実施するのは困難な印象でした。
ゲームを通して楽しみながら学ぶというのは、生徒にとっても主体的に学ぶ機会であるし、教員にとってもより意欲的・自主的に学んでいくため、魅力的な授業ができます。それにも関わらず、公立中学校の機器の不足と教員の手間によって教育現場に普及しないのは、大変な損失です。
一人一台タブレット端末が配布されたことで、これが大きく変わりました。タブレットによって授業の最初5分間というような細切れの時間であっても実施ができるようになりました。それこそ休み時間に継続して取り組み、学んでいる生徒も出てきます。
タブレット端末が普及したことによる一番大きな功績は、学びたい生徒により多くの機会を与えていることではないでしょうか。
*教員にもメリットが
教員が教材研究し、授業を行っていると、教員の認識の枠の中で学習が閉ざされてしまいがちです。しかし、生徒が教材を自ら研究をし、学びを深めていく授業は、時として教員も知らなかった知識までも取り込んで学んでいく可能性がひらけます。
これから求められる「良い授業」とは、教員が名人芸を披露し、生徒が観客となってそれを楽しみ学ぶ「パフォーマンス型授業」ではなく、生徒自身が教材研究し、それぞれが学びを深めていく「ゼミ型授業」のはずです。
それを実現するためのツールとしてタブレット端末は大変効果的です。生徒の興味関心から学びを深めていくために、是非、タブレット端末を上手に使っていきたいものです。
■(高等学校) デジタルネイティブに迫る
執筆者 塙 枝里子(東京都立農業高等学校)
新課程から一人一台端末の環境が整備され、本校のさまざまなシーンで活用されています。私も授業だけでなく、部活動や生徒への周知、学校広報誌の配布、授業評価アンケートなどで使用していますが、これで大丈夫なのか不安になることばかりです。今日は悪戦苦闘しながら社会科の授業で扱った一部をご紹介します。
*Chat GPTで何でもできる?!
今年の授業開きでは話題のChat GPTを取り上げました。
サイトから「日本の少子高齢化について教えてください」、「日本の税と社会保障の問題点は」などと入力し、結果を見せるというものです。AIによる秀逸な解答ぶりを生徒たちにも体験してもらおうとタブレットを持参させましたが、残念ながら既にアクセス制限がかかっており(!)叶わず、スマホで行いました。
一方、Chat GPTは未来のことを予測したり、特定の意見を述べたりすることは出来ません(実際にその画面も見せました)。そして、「AIの進化は私たちにどのような変化をもたらすのでしょうか」と投げかけました。
生徒たちからはさまざまな意見が出ましたが、私からは人間だからこそできることが研ぎ澄まされていくのではないか。未来を描き、創造していくためにこれからともに学んでいこう…というようなことを伝えました。
*ニュースの見方から考える デジタルとアナログでは何が違う!?
また、年度当初にインターネットと新聞で見るニュースの違いを考察させました。
まずはタブレットで「今日の気になるニュースを探してみよう」と検索させ、「ソース(情報元)はどこかな?」などと声掛けをします。すると「○○ニュース!」とほとんどの生徒はニュース配信サービスを言います。しかし、実際には提供元メディアがあるため、そこまで探してもらいます。
その後、記事のタイトルや長さ、なぜ気になったのかなどペアワークでシェアしてもらいました。
次に、学校で定期購読している新聞を一人一紙ずつ配布し、いわゆる新聞の読み方を解説しました。その後、「気になるニュース」を探させます(あと新聞の値段を探させると盛り上がります)。
所属校では生徒の新聞定期購読率は3年前から3割を切っており(授業者調べ)、久々に新聞を触った生徒もいるため、読み方が分からなかったり、選んだ記事が実は広告記事だったり、そもそも新聞がバラバラしてしまったりと大騒ぎ。紆余曲折を経て全員が記事を選び終わったら、インターネットと新聞記事の違いを話し合ってもらいました(新聞活用は帝国書院の『ライブ!現代社会』が参考になります)。
デジタルネイティブと言われる彼らですが、インターネット、新聞それぞれの良さを体感したようです。
*タブレットはツール
今後もタブレットを用いた匿名意見投稿やプレゼンテーション資料の共有、クイズ形式の確認テストや株式学習ゲームへの参加などに使用していく予定です。
でも、忘れていけないのは、タブレットはあくまでツールであるということ。これからは「よい授業とは何か」という問いと同様、「よい端末との付き合い方とは何か」という問いに向き合うことになりそうです –––
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