①どんな本か
・本年度からはじまった新科目「歴史総合」の授業づくりのために、歴史学研究会の歴史家と現場教員による参考書として編集された本です。
・教員だけでなく、高校生や大学生が読んでも面白い、考えさせる内容の本となっています。
②本の内容は
・「歴史総合」の構成に即して大きく四つの章とそれぞれの章の15のテーマ、さらに29の具体的な事例から構成されています。加えて「教室から考える「歴史総合」の授業」からなっています。四つの章と取り上げられている事例は以下の通りです。
・歴史の扉
吉田松陰、飢餓と飽食、飽衣、占領と沖縄基地、アイヌ人々への同化の5つの事例が取り上げられています。
・近代化と私たち
女性の政治参加、主婦と働く女性、産業革命、時間認識、共産主義、立憲政治、イスラーム世界と近代化、近代日本の宗教の8つの事例が取り上げられています。
・国際秩序の変化や大衆化と私たち
身体装飾、ファッション、プロテストソング、成田空港、兵士からみた世界大戦、戦争へのプロセスの6つの事例が取り上げられています。
・グローバル化と私たち
災害を巡る民衆心理、感染症、日本からの移民、移民国家アメリカ、キューバ危機、人の移動、アメリカの公民権運動、パレスチナ問題、アメリカの環境運動、震災からの地域復興の10の事例が取り上げられています。
・教室から考える「歴史総合」の授業
補講として、今を主体的に問う、生徒の関心から問う、図像資料を読み取るの三つが紹介されています。
③どこが役に立つか
・29の事例のなかで関心を持った箇所なら基本的にどこでも役立つでしょう。その意味ではネタの宝庫の本です。
・文献紹介の情報ガイドが親切です。一つ一つの事例は短くコンパクトなので、文献を手がかりにさらに追究もできます。紹介者は、時間認識の変化のところで紹介されている、角山栄『時計の社会史』や西本郁子『時間意識の近代』を図書館から借りて読み出しました。
・補論の、二人の現役の先生のこのテキストを使っての授業例の紹介もガイドブックとして親切です。ちょっと残念なのは、二人の先生がいずれも大学附属の高校で教えている先生で、公立高校でこのテキストがどう使われるか、そんな観点からのガイドがあると良かったのではと思います。
④感想
・一読、やられたと思いました。「歴史総合」だけでなく、「公共」もしくはそのなかの経済だけでもこれと同じような、生徒も読め、授業に役立つ事例集を専門家が書き、現場教師がその使い方をガイドする本が欲しいと思いました。
・歴史教育の世界では専門家と現場の距離が近いのに対して、経済教育ではその距離がかなり遠いという現実を見せつけられたようにも思いました。
・もう一つ思ったのは、「歴史総合」を学んで歴史の流れが理解できるかどうかということでした。確かに面白いけれど、通史を学ばないと不安だなと感じる生徒もいるのではというのが昔人間の杞憂です。テーマと通史の二つを両立させるのは難しいというのが正直な感想です。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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