①どんな本か
・タイトル通り、金融を中心に1920年から100年間の日本経済の歩みを描いた本です。
・特に、証券市場や銀行システムの歴史のなかで何度か襲われる危機に着目して、その危機をどう乗り越えたか、その一連の対応がどのような言説となって、後の対応のなかで使われたのかを描いている本です。

②どんな内容か
・全体は、7章からなっています。
・第1章は、1920年の株価暴落から関東大震災の時期が対象です。
 第2章は、1927年の金融恐慌に焦点があてられます。
 第3章は、1930年の昭和恐慌とその克服について述べられています。
 第4章は、1930年代から40年代の株式会社の動向を時代の変化とともに描きます。
 第5章は、戦後の経済民主化から高度成長期における企業経営と金融の歴史が扱われています。
 第6章は、1980年代のバブルの発生と崩壊についてです。
 第7章は、1990年代の金融ビッグバンからアベノミクスまでのonly yesterdayが扱われています。
・全体を通して、二人の女性(ミツとマサエ)の物語が紹介されて、激変する時代を二人がどう生きたのかが、金融の歴史とともに描かれています。

③どこが役立つか
・通史としての歴史書ではなく、「ナラティブ」(人々のあいだでシェアされる何らかのビジョン、噂、あるいはスローガン)をキーワードとして、テーマとした出来事、それを巡る人物たち、どうしてそのような政策がとられたのか、その結果と影響は次の時代にどのように歴史的教訓として受け継がれたのかが書かれていて、ひと味違う歴史書となっています。
・ナラティブの例が、随所に出てきます。特に平成になってからの金融政策で歴史的なナラティブがどう政策を動かしたか、動かそうとしたかが指摘されています。それを読むことで、経済政策は世間の風によって動いている面があることがわかります。現在のコロナに対するナラティブも紹介されています。
・中学の先生だったら、1学期まで学習してきた近現代史の復習に、また、これから取組む経済分野、特に金融に関してのイメージづくりに役立つはずです。
・高校の先生だったら、歴史の先生に昭和恐慌の金解禁のところが分からないけれど、先生は公民だから教えてくださいと言われたときなどに手助けとなるでしょう。
・授業づくりの方法として、無味乾燥とされがちな経済、金融の場面で、人間を登場させながら展開してみようとするインセンティブを与える本になるかもしれません。

④感想
・まず、読み物として面白く読めました。このような構成で歴史を扱うこともできるのだという新鮮な印象を得ました。
・取り上げられている二人の女性(だれかは本書を手に取って発見してください)は1920年生まれ。先年97歳で亡くなった私の母は1921年生まれですが、早生まれなので、学年は二人と同じだったことがわかり、感慨深いものがありました。
・私が数年前に書いた、算数・数学と経済教育を扱った文章が参考文献ででてきてびっくりでした。だれかがどこかで見てくれているんですね。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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