執筆者 新井明
「SDGsを知っていますか?」という質問を受けたら、先生たちは「もちろん」と答える方がお多いでしょう。
では「、具体的にどんな内容ですか?」と聞いたら「うーん」とうなるかもしれません。今回はそんなSDGsを巡るお話しを。
(1)30・10運動
先日、出校している大学の非常勤講師の懇談会に参加した時に、主催者のスピーチに30・10(さんまる・いちまる)でゆきましょうという話がありました。
30・10運動は長野県松本市からはじまった食品ロスをなくすための取組みです。宴会などで、最初の30分は一生懸命食べる、そのあと懇談、そして最後の10分には残さず食べる。余ったらドギーバックなどで持ち帰ろう、という運動です。
その大学では全学でSDGsに取り組んでいて、その一環でのスピーチだったようです。
実際に観察してみたら、たしかに最後は残さずに終わりました。素晴らしい結果だと感心して帰宅しましたが、出席者に対して用意した食べ物が少ないという希少性の世界の結果だったからかもしれません。
同じ大学で、教育学科のゼミ生が、3my(myはし、myバック、myボトル)を実践していますかというアンケートも昼休みにとっていて、全学的な取組みが浸透していることがわかりました。
(2)あらためてSDGsについて
SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標のことです。
全部で17の目標と169のターゲットからなります。
17の目標は、①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に、⑦エネルギーをみんなに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられる町づくりを、⑫作る責任使う責任、⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさも守ろう、⑯平和と公正をすべての人に、⑰パートナーシップで目標を達成しよう、です。
日本では、政府が音頭をとり企業も巻き込んで取組みが進んでいます。また、教育の世界でも、学校教育のあらゆる面で取組みがはじまっていますが、具体的にどんな形で取り組むべきかに関しては温度差があるようです。
(3)探究学習の落とし穴
17の目標は、途上国がメインのテーマ、先進国も含めた全体のテーマ、広いテーマ、具体的な課題が明確なテーマなど、テーマにレベルや対策の違いがあってなかなか焦点化しにくいところがあります。
とはいえ、現代世界の課題が列挙されていることは間違いないので、新科目「公共」では、内容のCに「持続可能な社会づくりの主体となる私たち」というタイトルが付いているように、教科のなかでも探究学習のテーマとして取り上げるにふさわしいものと言えるでしょう。
その際、注意をしたいのは、しっかりしたリサーチの必要性です。
例えば、先にあげた大学生の3my運動のちらしには、⑮陸の豊かさを守ろうに関連させて、割り箸をへらしてmyはしを持参しようというスローガンと、割り箸は森林破壊につながるという文言が書かれています。
輸入はしを考えるとたしかにそれは言えるのですが、国内産のはしに関しては必ずしもそうとは言えなさそうです。
割り箸論争というのが1990年代にあり、当時、東京のある私立中学校の生徒たちが「わり研(割り箸研究会)」というサークルを作り、生産地まででかけて、国産割り箸は森林破壊ではないというレポートを書き、それが話題になったことがあります。
大学生諸君が、現在の割り箸の生産、流通の実態をどこまでリサーチをしてチラシに書いたか、聞いてみたい気になりました。
(4)批判的思考のリトマス試験紙に
SDGsのような世界的、また国策的な運動を探究テーマにする場合は、ちょっと待てよの精神と、しっかりした事実を集めてゆくこと、それもできるだけ多様なものをあげて吟味することが求められています。
そして、一つの政策には利害がからみ、意図せざる結果が生じることを発見させるような示唆が必要になります。
そういった配慮がないと、自分たちは良いことをやっているのだという「正義」のスローガンが一人歩きをするおそれも出てくることをこころしたいものです。
ちなみに、30・10の話を後日別の懇親会で話しました。
その結果、食べ残しをださない努力をして、みなきれいに平らげましたが、逆に私の胃袋は一杯になり、翌日まで響きました。
まさに意図せざる結果が生じたわけです。
(メルマガ 127号から転載)
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