執筆者 新井明
子どもの時の新年はお年玉をもらうのが楽しみだった先生も多いはずです。今は、あげる方になって大変というのは、少子化の現在、うれしい悲鳴かもしれません。今回はそんなお金にまつわる授業のヒントです。
そういえば、昨年、ジンバブエが通貨として中国の元を法貨として今年1月から流通させるというニュースがありました。こんなことがおきるのだという意味ではビックりのニュースですが、お札(紙幣)は経済の授業に関するヒントがたくさんつまっている実物教材です。
(1)お札に書かれている肖像はだれ?
一番シンプルに使うのは、お札に書かれてい肖像を当てさせるクイズをやることです。日本では、現在、福澤諭吉、樋口一葉、夏目漱石ですが、かつては高橋是清が50円札で登場していたこともあります。
経済と関係する人物では、イギリスの20ポンド札にアダムスミスが使われていることが特筆されます。ただし、今年中には別の人物に変わってしまうようで残念です。ほかに、経済学に関連しては、旧東ドイツでマルクスが、旧ソ連でレーニンが使われていましたが、社会主義体制の崩壊とともに消えてゆきました。ただ、毛沢東は今でも中国元で使われていますから、社会主義の看板をおろしていないぞというメッセージですね。
これからお札に登場する経済学者がいるかどうかを予想させるのはちょっと難しすぎる問いかもしれませんね。
(2)ハイパーインフレの実物貨幣を持ち込んで数字を確認する
ジンバブエのドルはネットで購入できます。100兆ジンバブエドルが売られていました。数字の0を数えさせるとともに、価値のないお札が値段をつけて売られるという意味を考えさせても面白いかもしれません。
ドイツのハイパーインフレの時期の紙幣のコピーは、教材用として教科書会社などから提供されています。これも教室で回して、数字の0の数を数えさせてハイパーインフレを実感させることができます。
(3)絵柄からその国の文化や価値観をつかむ
これは世界史や地理の授業での使い方かもしれません。お札の肖像は政治家が多いのですが、歴史的人物や文化人もいます。新興国で、経済建設を優先している国は橋やダムなどの社会資本を絵柄にしている国もあります。お札の絵柄からはその国が何を大切にしているかが浮かび上がります。
ちなみに、あまり使われていない日本の2000円札が何を絵柄にしているか、先生方も実際に確認してみてください。日本にとって大切なものがでてくるはずです。
(4)お札の本質と役割を考えてゆく
ここまではつかみの部分でした。ここからが本格的な展開になります。紙幣がなぜ使われているのか、これはしっかり考えさせる価値のある問いになります。兌換紙幣ではないのだから、中央銀行はどんどんお札を印刷してもかまわわないのか、もしそんなことをやったら何か起きるのか、そもそも中央銀行はどんなしくみで紙幣を発行しているのか、現在の日銀の金融緩和はどんな仕組みで、どんな効果がでているのか、為替変動をなくすにはみんなが同じ通貨をつかえばいいのか、などなどお札から様々な設問が飛び出します。これらは、授業本論での重要な構成要素になります。
お札という入り口から金融の本格的な展開まで、生徒や学校の実態に合わせていろいろ工夫してみてください。
最後に問いを一つ。冒頭にあげたジンバブエの紙幣の売り手の口上です。
「経営者にあげたら大喜びされました。この数字の収入がありますようにという願掛けとして、お店に飾ってある」というものです。この口上をどう考えるか、経済的な見方をもとに。生徒と一緒に考えてみてください。
(メルマガ 84号から転載)
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