① なぜこの本を選んだのか?
 金利をどのように日常生活と結びつけて教えたらよいのでしょうか?この問いに答えてくれそうな一冊を探していました。
 本書は、現代の金利に関する知識だけでなく、歴史的な記述も登場します。「公民科」だけでなく「地歴科」の先生にも読んでいただけたらと思い本書を選びました。

② どのような内容か?
 第1章は「金利を上げ下げする力はどこから来るのか」です。次の4点に注目しました。
 第1に、金利を決める要素は,インフレと借りた金を使って得られるもうけの大きさだとしているところです。一国全体の金利は、経済全体においてもうけを産む力を反映することを具体例を挙げながら説明しています。 
 第2は、この金利を巡る金融政策について、なぜ中央銀行が金利を動かすのか?どうやって動かすのか?を取り上げているところです。
 第3は、金利の動かし方について、オーソドックスな手法がある一方で、現在は別の方法で動かしていることを示しているところです。
 第4は、2024年3月に新聞で報道されたYCC(イールド・カーブ・コントロール)がどのような歴史的背景をもっているのかをまとめたところです。

 第2章は「金利はなぜ「特殊な価格」なのか」です。注目したのは次の3点です。
 第1は、金利が存在している理由を、貸倒れリスクの観点から示しているところです。
 第2は、金利が需要と供給を調整する役割を果たすことができるのかを検討しているところです。アカロフが論じた情報の非対称性の問題は、スティグリッツによって金融に応用されることになります。そのスティグリッツが「お金の借り手は返済を踏み倒すつもりならば、金利はいくら高くてもいい」ということを見抜いたかどうかというエピソードが印象的でした。
 第3は、金利をめぐる社会規範が歴史的にまとめられているところです。西欧の金利に関する社会規範や古代・中世日本の金利についてまとめられている記述は教材研究をする上で助かります。

 第3章は「消費者金融の金利は高すぎるのか低すぎるのか」です。注目したのは次の2点です。
 第1は、政策としての金利と消費者金融から借りたお金に関する金利は別世界のものだと指摘しているところです。翁先生は第3章で消費者金融を取り上げることで、政策としての金利と日常生活で触れる金利を比べて論じることができると考えたのではないかと読み取りました。
 第2は、日本銀行考査局の職員が、サラ金は銀行員にお金を貸さないという都市伝説が本当かどうかを検証したというエピソードです。

 第4章は「住宅ローンの金利は上がるのか下がるのか」です。
 この章は、公民科だけでなく家庭科の先生も参考になる話題がたくさん登場します。注目したのは次の3点です。
 第1は、住宅ローンの全体像をつかむことができるところです。
 第2は、サブプライム・ローン問題について歴史的、社会的にまとめているところです。「サブプライム・ローンは、挽肉に混じった大腸菌のようなもの」といった例えで説明しています。
 第3は、リスクの認識についてです。初期の低金利に手を出すことで、後にどのようなリスクが待っているのかを借り手は認識できなかったのではないかという研究成果を紹介しています。 

 第5章は「金利はなぜ円高・円安を起こすのか」です。
 この章では、金利と為替レートがどう関連しているのか?影響はどのような形で国民に波及していくのかが書かれています。注目したのは次の3点です。
 第1は、為替レートの決まり方を理解するには、固定相場制のメカニズムを振り返ることが有効だとしているところです。
 話しは、固定相場制と金利の説明、変動相場制に移行するとどうなるのか、その先にある購買力平価説とビッグマック指数について、そのビッグマック指数が示す数値とは異なる現実の為替レートといった流れですすんでいきます。
 第2は、為替レートの予測はなぜ当たらないのかを説明したところです。為替レートを動かすのは新しい情報であること。新しいということは、今知ることができないということ。よって予想が困難だと説明しています。ケインズの美人投票問題と同じ問題を引き起こすと指摘しています。
 第3は、金利の影響を受ける為替レートの動向が国民生活にどのような影響を与えるのかを記述した部分です。
 2020年代以降、世界的なインフレが進む中、日銀が超低金利政策を維持したため円安が進行したと考察しています。その上で、円安の恩恵およびダメージを受けるのは誰なのかが示されています。

③ どこが役に立つのか?
 本文に負けないくらい「補論」が役に立ちます。これは各章ごとに後半に設けられたコーナーです。
 取り上げている話題が豊富です。モーセやルターが登場します。イスラム銀行の内側を紹介しています。質屋さんの仕組みが描かれています。日本の平安時代の質屋さんもでてきます。ねずみ講が登場し、サブプライム・ローンとの関連について説明しています。 
 歴史や倫理で学習する内容とつながる記述は、経済的分野の立体的な授業づくりに役立つと思います。

④ 感 想
 教師が抱いている金利の概念と生徒が受け止めてる金利の概念は想像以上に離れていると感じるときがあります。ほら!これが金利だよと手に取って示すことができない学習内容を教えるときに、教師はどのような知識をもっていればいいのでしょうか?
 このような問いに関する手がかりを見つけることができる一冊だと感じました。

(神奈川県立三浦初声高等学校   金子 幹夫)

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