①どんな本か?
多くの啓蒙書で有名なリフレ派の経済学者が、2000年代以降これまでの財政・金融政策を総括して、新たな政策提言をおこなった新書です。
②どんな内容か?
全体は4章からなっています。
第1章は「財政をめぐる危機論と楽観論」のタイトルで、最初に財政の現在の状況のデータと財政をめぐる基本的な理論が論じられ、公債は誰の負担になるかでは、中立命題をはじめとして伝統理論と新正当派とする新しい理論が紹介されます。それを受けて財政政策で重要なのはGDPギャップで、それを埋める需要創出の重要性が提案されています。
第2章は「金融政策の可能性と不可能性」のタイトルで、最初に金融政策の論理として金融に関する基本的な理論が紹介されます。次に、金融政策の波及経路と非伝統的金融政策として黒田日銀時代の政策に関する理論が紹介されます。それをうけて、自然利子率をキーワードとしたこれからの金融政策の理論と政策が提示されます。
第3章は、「一体化する財政・金融政策」のタイトルで、国債と貨幣の違いはあるかからはじまり、財政政策と金融政策の依存関係、財政の維持可能性が紹介されます。ここでの結論は、日本の財政が破綻する可能性は低く、これからは財政と金融を一体化させた統合政府として経済政策を推進すべきであるというものです。
第4章は、「需要が供給を喚起する」のタイトルで、高圧経済論という新しい経済理論が提示されて、求められるのは長期的な総需要管理への転換であるとして、中立的な需要促進政策、より具体的には人材と経営の流動化、社会保障からの成長政策が提案されています。
③どこが役立つか?
リフレ派の現在の到達点とこれからの政策提言を知るという点では役立つでしょう。ただし、基礎理論と新たな理論的な提言のための理論の説明、さらに具体的な政策提言が区別、整理されて書かれていないので、それぞれ腑分けをして読む必要があります。
先生方の関心の持ち方で言えば、財政と金融の基礎理論を確認したい場合は、各章の1の部分を、財政の持続可能性や日銀のこれからの政策に関心がある場合には、各章の最後の結論部分を読めば良いかもしれません。
著者のグループの見解を知りたい場合は、各部分にある著者の見解をピックアップするとその主張が見えてきます。
基礎理論を書いた部分では、「国債と1万円札の違いは?」、「一人あたり1000万円の借金?」、「マネーって何?」、「貸し出しがマネーを創造るの?」などから、財政や金融の授業で生徒に質問する問いと答えが見つかるでしょう。
④感想
この本、メルマガ176号で紹介した、湯本雅士『新・金融政策入門』(岩波新書)と併読することを勧めます。
https://econ-edu.net/2023/09/01/4508/
湯本本では、タイトルが金融政策となっていますが、財政も扱っているので、かなり今回の飯田本とオーバーラップしています。
立場、結論は真逆ですから、同じ現実が、立場によって違って見えることがよく分かります。個人的には、統合政府論に対して慎重な湯本本の立場を好ましいと思いますが、政策は政治ですから、アベノミクス(クロダノミクス)のように、政治と結びついて、だれかを悪者にして、それとは逆の政策をおこなえば解決というような形で一世を風靡する可能性もあります。
自分の頭で考えろと生徒には言いますが、まずは、先生方が手に取って二つの本を比較して、分からないところは専門家の意見を聞きながら自分なりの見解を持ってみることを勧めます。
もう一つ、加えておくと、同じ中公新書でも最新刊の小林慶一郎『日本の経済政策』では、同一のシリーズでも反対の結論が展開されています。こちらの併読も勧めます。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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