①どんな本か?
 イングランド銀行が、近年取り組んでいる、中央銀行の仕事や広く経済の仕組み多くの人に理解してもらうための教育プログラムの一環として刊行された経済学の入門書です。
 この本、イギリスのすべての公立学校に一冊ずつ配布するとのことです。


②どんな内容か
 イングランド銀行総裁による序文以下、序章と9章からなります。
 序章は「経済学はどこにでも」のタイトルで、経済学の定義と経済学の役割を語ります。
 第1章は「食べたい朝ご飯を選べるのはなぜ?」で、市場についての解説があります。
 第2章は「経済学は気候変動問題を解決できる?」で、市場の失敗が取上げられます。
 第3章は「どうすれば賃金は上がる?」で、労働市場が扱われます。
 ここまでがミクロ経済学の範囲です。
 第4章は「ひいひいおばあちゃんの代より私たちのほうがゆたかなのはなぜ?で、経済成長が扱われます。
 第5章は「私の服の大半がアジア製なのはなぜ?」で、貿易が扱われます。
 第6章は「どうしてフレッド(チョコ菓子)はもう10ペンスで買えないの?」で、インフレが扱われます。
 第7章は「そもそもお金って何?」で、金融の話が本格的になります。
 第8章は「タンス預金が好ましくない理由は?」で、銀行、中央銀行の役割が説かれますj。
 第9章は「どうして危機がおこると誰もわからなかったの?」で、女王陛下の質問から経済危機の話になります。
 第10章は「中央銀行がどんどんお金を刷ることはできないの?」で、金融政策とあわせて財政政策が扱われています。
 最後の終章は「あなたも経済学者」で、まとめられます。


③どこが役立つか?
 この本全体を通読することで、経済学の基本的な考え方がわかります。
 授業でそれぞれの項目を扱う時に、各章をあらかじめ読んでおくことで、教科書の記述の背後にある経済学の理論がリンクして、授業での説明に厚みがでるでしょう。
 ②で紹介したように、各章は問いかけのスタイルになっているので、授業のはじめに授業のねらいを的確に示すこともできます。また、付録としてつけられている「経済学に関 する51の質問」は各章の小項目に対応しているので、これを活用して授業のねらいを疑問の形で設定することもできます。
また、各章の冒頭の事例は、イギリスのものですが、日本に置き換えることで導入のネタのヒントにもなります。


④感想
 邦訳のタイトルは「経済がよくわかる」となっていますが、この本、経済学の初歩を理解させる本だと思いました。ちなみに、原タイトルはCan’t We Just Print More Money? :Economics in Ten Simple Questionsです。
 この本、全くグラフも表もでてきません。その意味ではひたすら読む必要ありです。ちょっと難しい部分もありますが、高校生でも頑張れば十分理解できる書きぶりです。同じ本を使ってテストをやってみたら、イギリスの高校生と日本の高校生の関心度や理解度が試されるかもしれません。
 第10章では、日本のデフレとその対策が紹介されています。外から私たちはこのように見られているのだという意味では面白い箇所です。
 この本を出版するきっかけとなった「コミュニティフォーラム」に出席したシャーリーメーインズという介護士の女性のエピソードが紹介されています。ここを読んで、このフォーラムにイギリス在住のブレディみかこさんが出席したら、イングランド銀行のエコノミストとどんなやりとりをするだろうかと想像してみました。そんなことがあれば見ものですね。
(経済教育ネットワーク 新井 明)

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