①どんな本か
日本銀行のOBの著者が10年前に出版した『金融政策入門』の改訂版です。第一部の基礎編と第2部の政策編に分かれていて、金融や金融政策に関する基礎的な知識とこの10年間の日本銀行を含めた世界の中央銀行の政策が分かる本です。
夏休み経済教室に参加された先生にとっては、復習のための本にもなります。

②どんな内容か
著者が建物の基礎工事部分、土台と呼ぶ、第一部の基礎編は5章に分かれています。
第一章で、金融政策の定義、担い手、目的など金融政策の前提の知識を押えます。
第二章は、金融政策の波及過程が説明されます。ここでは金利の変化を利用するチャンネル、中央銀行のバランスシートの変化を経由するチャンネル、期待への働きかけを使うチャンネルの三つが説明されます。
第三章は、金融政策と財政政策の関係を整理します。ここでは、財政赤字のファイナンス問題が中央銀行の立場から説明されます。
第四章は、金融政策と為替政策で、国債収支の構造と為替相場の関係、金融政策と為替相場の関係が説明されます。
第五章で、中央銀行のデジタル通貨に関しての説明があります。
建物の柱、屋根に相当する第二部の政策編は三つの章です。
第六章、第七章でアメリカのFRB、欧州中央銀行、イングランド銀行の政策運営が紹介されます。
最後の八章で、日本銀行の政策運営の歴史が、黒田総裁時代まで振り返られまる。ここでは特に黒田時代の日銀の政策が詳しく紹介、分析、評価されています。

③どこが役立つか
金融を教える準備として、基礎編の第一章から第三章が役立ちます。
先に紹介した『信頼の経済学』が貨幣や金融、銀行、中央銀行がなぜ存在するかという本質論を展開しているのに対して、現実に、貨幣や銀行、特に中央銀行の制度を整理しています。その点では、教科書の制度に関する記述を専門家の視点から整理し直すことができます。
また、金融政策に関しては実体経済との関係や、金融政策の波及過程など、教科書にはさらっと書かれている箇所を実務家だった立場から整理しています。
さらに、財政に関して金融、中央銀行の立場からそのファイナンスの問題を扱った箇所は、財政赤字を扱う場所での参考になるでしょう。また、MMTやデジタル通貨に関する著者の評価もこの問題を考える手がかりを与えてくれるでしょう。
応用編では、黒田日銀の政策、黒田ノミクスの整理とそのその総括が、バランスがとれたものとなっていて参考になるでしょう。

④感想
旧著を読んでいなかったので、新鮮な気持ちで読み、感心しました。
日銀OBの本ではこのメルマガでも紹介した翁邦雄さんの『人の心に働きかける経済政策』岩波新書の日銀の政策部分と併せて読むことで複数の目でこの10年の金融政策を見ることもできます。
複数ということで言えば、日銀の政策員会のメンバーだったリフレ派の人たちも総括的な本を出していますので、巻末にある参考文献を手がかりに、そちらも参考にすることが良いかもしれません。でも、そうすると三ツ目になってしまうかもしれませんが。
(経済教育ネットワーク 新井 明)

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