①どんな本か
春の経済教室での好評を受けて、夏休みの経済教室でも登場される中島隆信先生の新しい本です。
2002年に刊行された『お寺の経済学』を「祈り」という観点から見直し、行動経済学の知見も取り入れてバージョンアップされた本です。

②どんな内容か
全体は4章からなっています。
第1章は「祈りの行動経済学」で、私たちがなぜ祈るのかを行動経済学から分析しています。
登場する行動経済学の理論や概念は、プロスペクト理論、確率加重関数、クローズドループ現象、プラセボ効果、バーナム効果、認知的不協和、ナッジ、デフォルト・オプション、ヒューリスティック、アンカリング、メンタルアカウンティング、最後通牒ゲームなどです。
これらの理論や概念を使って、一見不合理な人間行動、特にそのなかでも個人の価値観や行動に影響を与える「祈り」を分析してゆきます。
第2章は「仏教における祈り」で、原始仏教での祈りからはじまり、それが宗教的行為になるプロセスをたどります。そのなかで、日本の仏教における現世利益の扱い方、葬式仏教化した仏教における「祈り」を分析します。
第3章は「お寺のガバナンス」で、寺院を非営利組織としてとらえ、そのガバナンスの難しさを分析してゆきます。
第4章は「お寺は生き残れるか」で、ここまでの議論をまとめて、現世利益や葬式仏教の今後、さらに現代における祈りを展望します。

③どこが役立つか
公民科でも「公共」「倫理」の担当の先生には、第1章や第2章の記述や事例が、直接役立つ本でしょう。また、「政治・経済」でも第3章の非営利組織のガバナンスに関しては、株式会社と対比して扱う事ができるでしょう。
特に、最近の政治的事件の背景にあるカルト的宗教教団の行動やそれに巻き込まれる人間心理を理解する手がかりをえることができるでしょう。
行動経済学に関心のある先生にとっては、大竹先生の『行動経済学の使い方』などでは扱われていない宗教に関して考える手がかりを与えてくれる本です。

④感想
中島先生が、2005年の本をさらに深めたこの本を書く動機が書かれた「あとがき」を読んで、学者は実存的問題を学問の形で昇華してゆくのだなというのが感想です。
また、私事ですが、「墓じまい」に関わらざるをえなくなり、その時に、お寺のやり方や祖先崇拝の問題などを考えさせられてきました。
檀家が減少してゆくなかでの寺院の維持の問題、そもそも論として、なぜ墓という装置が必要なのか、祖先を祀るとはどのような意味があるかなど、本書を読んでその疑問の一端を解くことができました。それでも残るのは、信じること、祈ることの意味ですが、これは自分の生き方の根底にある価値の問題として受け止めてゆく必要ありと感じました。
本書で取り上げられているのは仏教ですが、キリスト教だとどうなるのか、祈りと教会、教団の関係などさらに広げて考えてゆきたいと思わせる本です。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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