①どんな本か
『人新生の「資本論」』で一世を風靡した斎藤幸平氏が、コロナ禍のなかで行って新聞連載をした様々なフィールドワークをまとめた本です。
②内容は
新聞連載の体験の数は22、それに書き下ろしの北海道ウポポイのルポを加えて23の体験が、「社会の変化や違和感に向き合う」、「気候変動の地球で」、「偏見を見直し公正な社会へ」の三章にわけて紹介されています。
内容は、直接現地にでかけて関係者に取材したルポ(釜ヶ崎、水俣、磐城、石巻など)や、実際に体を動かした体験(ウーバーの配達員、ジビエの体験、京大でのタテカン作りなど)、食に関する体験(培養肉、昆虫食など)がメインです。 コロナ禍の緊急事態宣言で外出ができなかった時期には、「あつ森(集まれ動物の森)」というゲームや、男性メイク、エコファッション、在宅勤務、こどもの性教育、電力消費、脱プラ生活など室内や自宅でできる体験や挑戦が紹介されています。
あとがきに代えてと題された最終章では「学び、変える、未来のために」というタイトルで総括の文章が書き下ろされています。
③どこが役に立つか
最終章で斎藤さんも書いていますが、「現場にゆこう」という点で、実際に出向いた釜ヶ崎、水俣、東日本大震災の被災地などのルポが授業で使えるところでしょう。
本のタイトルになった「ウーバー体験」も高校生には伝えたい、フリーの仕事の現実が書かれています。
第二章の「気候変動の地球で」は、斎藤さんのフィールドの環境問題に関連する体験や考察が取り上げられているので、環境学習に際しての手がかりとなるでしょう。
第三章の「偏見を見直し公正な社会へ」も外国人の実習生の実際や、路上生活者の支援ルポなど人権学習での素材になるものが紹介されています。
④感想
新しいコモンがマルクスの現代化であるという、フクシマ本で言えば左派の主張をしている若手の研究者の生活ぶり、体験を通した思考と生活のギャップや戸惑いなどが素直に書かれている本で、好感をもちました。
特に、男性、東京出身、高学歴の東大准教授という「おっさん」の三条件を持っていると自身が書いている著者が、「一から学び直す」という体当たりでぶつかる姿勢は、その思想、考えを支持するしないにかかわらず、私たちに問いかけるものが多い本だと感じます。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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