①どんな本か
経済学の碩学が、日本を知ることの必要性に気づいてそれを実行した、「ブラタモリ」、「街道をゆく」の猪木版とでもいうエッセイ。訪ねた場所は日本近代科の担い手になった鉱山。そこに出向き、「地霊」の声に耳を傾けた紀行集です。
②どんな内容か
北は北海道の赤平炭鉱から南は鹿児島の永野鉱山跡まで全国の鉱山、それもほとんどが廃坑になっている場所を訪ねた足跡を27の章で紹介しています。
言及されている鉱山は40カ所。有名なところでは、北海道夕張、釜石、佐渡、日立、足尾、別子、岩見、筑豊、三池などが登場します。
目的地に関する歴史、その地に関連する人物、その著書や言行が記されています。人名索引がついていて、その数、数え方が間違えなければ449名に上っています。ちなみに、言及されたベスト3は、福澤諭吉11、松尾芭蕉9、西郷隆盛9でした。
鉱山があるところは温泉ありで、旅の途中で寄った温泉も紹介されていますから、温泉案内にもなる本です。
③どこが役立つか
歴史や公民の教科書で必ず登場する場所、例えば足尾や別子、佐渡などの箇所を読んで、授業のネタとして使うことが出来ます。
経済と関連する箇所では、甲府の金山を紹介した場所では、甲州金とグレシャムの法則という記述があり、悪貨が良貨を駆逐した事例が紹介されています。阿仁鉱山のところで紹介されている鉱夫の相互扶助組織である「友子制度」も現代の労使関係と比較して使える箇所かもしれません。ところどころに挟まれている経済学者や思想家と鉱山の関係を知るのも一興です。
日立鉱山では大煙突の話が登場し、岐阜の神岡鉱山ではイタイイタイ病が言及されています。そこに登場するエピソード、各地の歴史や文化人に関する研究書の紹介からさらに関心を広げることもできます。
また、別子銅山のガイドブックを作った新居浜南高校の生徒の活動なども参考になるでしょう。
④感想
「地霊」という言葉は、鈴木博之『東京の地霊』(ちくま学芸文庫)という本で知りました。たしかにその土地には「地霊」あると感じます。そんな「地霊」を訪ねての旅、楽しみながらフィールドワークをする著者の姿勢に感服。
それぞれの場所にまつわるエピソードとその多様性にも感服。経済学だけでなく、思想、文芸、音楽、そして地理や歴史まで包摂する知の広さはもっと知られて好いのではと思いました。
それにしても、廃業した鉱山の多さを改めて知り、産業の興亡が地方の荒廃、一国の興亡に通じるのではと思うと危機感を持ちました。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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