①どんな本か
メルマガ3月号で紹介した『物価とは何か』(講談社)の続編です。
元日銀マンの東大教授が現在進行中の物価上昇の謎を追究した本です。

②本の内容は
 全5章です。
 第1章「なぜ世界はインフレになったのか」では、経済学者も中央銀行も読み違えた世界的インフレの要因を探ります。ここでは、インフレの原因はウクライナ戦争ではなくパンデミックが主犯で、それが一時的なものではないこと、現在パンデミック後の新たな価格体系に向けて移行中であるという著者の診断が述べられています。
 第2章「ウイルスはいかにして世界経済と経済学者を翻弄したか」と、第3章「後遺症としての世界インフレ」は著者の結論にいたるプロセスが述べられています。そこでは現在のインフレは供給インフレであるとの診断がされています。
 第4章「日本だけ苦しむ2つの病」では、長期のデフレと突然のインフレという2つの病に悩む日本経済の現状分析が行われます。
 第5章「世界はインフレとどう闘うのか」で、現在欧米が直面している賃金・物価のスパイラルと日本のスパイラルとの違うこと、日本ではまずは賃金凍結状態の解凍を変革の原動力にすべきという提言でまとめられています。

③どこが役に立つか
生徒に「今の物価高の原因はなに?」と聞かれた時に、それはねと、この本を読んである程度答えることができます。
なぜある程度かといえば、著者の供給インフレ説を説明するには、労働供給の減少、賃金の上昇という理論を説明しなければいけないことがあります。また、著者の結論がまだ本当にそうなのか、承認されてはいないこともあります。
それでも、一流の学者がインフレの原因を一つずつ検証してゆくプロセスは、仮説をたてて検証してゆく探究学習のプロセスそのもので、本気で探究学習に取組ませるときの手本となると思われます。
また、本書でとりあげられている事例や「安いニッポン」現象のコラムは直接授業のネタとして使えるでしょう。

④感想
 本書に登場する「賃金・物価スパイラル」は、紹介者が毎年使っている『レモンをお金にかえる法』の続編で登場する言葉です。それが本書で登場しているのにまず驚きました。
 『レモン』では大人たちが「賃金・物価の凍結令」をだすことでスパイラルを一時的に解決しますが、本書では、日本の「賃金・物価のスパイラル」は凍結状態で、その凍結を解消することが重要という結論も、紹介者には新鮮でした。
 もう一つ驚き。戦争はインフレの原因ではないとされたことです。授業では、ウクライナ戦争による供給コストの上昇が円安と絡んで現在の物価高になっていると説明していました。これを修正しなければいけないか、もうすこし考えてみたいと思っています。
 それにしても、研究プロセスの紹介で、ご自身の見立てが間違っていたと素直に書かれている著者の研究の姿勢に感銘をうけました。
 今後、著者の分析や提言に対して他のエコノミストがどう反応するか、それを興味深く見つめてみたいと思います。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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