①どんな本か
・世界銀行の副総裁をつとめたこともあるロンドン・スクール・エコノミックス・ポリティカル・サイエンスの学長のエコノミストが、社会契約という切り口から21世紀の経済の課題とその処方箋を書いた本です。
・筆者はエジプト生まれの女性経済学者です。21世紀の福祉国家の在り方をさぐる『ベヴァリッジ2.0』という研究プログラムを立ち上げています。
②本の内容は
・全体は8章にわかれています。目次を紹介しておきます。
第1章 社会契約とは何か?
第2章 子どもの養育は誰が担うべきか?
第3章 幼児教育と生涯学習
第4章 健康であるための負担と責任
第5章 労働者を守り、育てる
第6章 高齢者の暮らし
第7章 次世代への正負の負担
第8章 新しい社会契約
・この目次で分かるように、育児、教育、健康、労働、高齢化、そのための財源という経済学で言えば厚生経済学や応用経済学の対象となる労働、福祉問題をテーマにした本です。
・著者の基本的な姿勢は、サッチャー流の「社会はない」を批判して、「社会はすべてである」というテーゼで、誰もがささえあう社会をどのようにつくるのか、具体的な対応を示しています。
③どこが役に立つか
・高校の「公共」で登場する、社会契約の思想家、また、ロールズ、センなどの現代の思想家がたくさん出てきます。
・教科書では分断されて記述されている日々の暮らし、私たちを支える社会のしくみを改めて確認することができる本です。そこで大切なのは、政策を変えること、それが新しい社会契約となるという主張は、社会科教育の担い手にとって勇気を与えてくれると思われます。
・主張を支えるデータ、出典が示されているところが役立ちます。18ある図表は有名なものも多く、授業で生徒に分析をさせるのに使えるでしょう。また、48ページにわたる巻末の原註をチェックすることで最近の世界の研究動向が分かります。
・対象が世界全体なので、索引で日本の項目を使って、日本の位置を確認することも有効な使い方と言えるでしょう。
④感想
・エジプト生まれの女性が教育の階段を登ることで、国際機関で活躍し、LSEの伝統を受け継ぎこのようなマニフェストを発信していることに感銘をうけます。
・新自由主義に対抗する流れが生まれてきていることが最近のこの欄の本の紹介からもうかがわれますが、新自由主義の思想的源流の一人であるハイエク、さらに現代経済学の基本的な考え方を提唱したロビンズがLSEの関係者であることも興味を引きます。
・こんな骨太の本が日本で出されないのはなぜなんでしょうか。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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