①どんな本か
・現代の経済学でのミクロ理論とマクロ理論を共通の分析方法で理解するためにはなにが求められるかという問題に取組んだ理論家の本です。
・合理性という概念でそれを統合しようという提言が書かれています。サブタイトルが「経済学の真の標準化に向けて」とあります。
②本の内容は
・第0章の再び静かな革命か?で問題提起がされて以下5章構成の本です。
・第1章 経済学の歴史を分析単位から振り返る
第2章 合理的経済人と最適化
第3章 合理的経済人の見直し
第4章 マクロ経済学とミクロ的基礎付け
第6章 標準的経済学の未来像:「合理性」と「ミクロ的基礎付け」の使い方
③どこが役立つか
・正直、中学や高校の授業には直接は役に立たないでしょう。これを読むのは、今だと研究者か大学院生くらいかなと思われるレベルの本です。
・それでも紹介したのは、行動経済学が注目されて「伝統経済学」という言い方でこれまでの経済学の限界が指摘されていることがあります。「伝統経済学」とはどのようなもので、批判に対してどのような対応をしているのか、それを知る手がかりになると思われたためです。
・第2章、第3章では、ゲーム理論、行動経済学の代表的な事例が扱われています。数式が登場するところを飛ばしながら読めば、興味のある箇所、高校教科書で登場する箇所などの理論的な背景を知ることができるでしょう。
④感想
・紹介者が一番面白いと思ったのは、第0章の、清水(昭和)と清水(令和)の対話部分です。清水(昭和)が、「ミクロ、マクロ、マルクスのどれが一番正しいか」、「合理的経済人の仮説で理論を組み立てているミクロは大丈夫か」と先生に聞く場面です。紹介者は筆者より一回り年上ですが、ここから80年代初頭のまじめな経済学徒の像が浮かび上がりました。
・また、第6章のまとめの部分も「巨人の肩に立つ」「巨人の肩から降りる」という表現がでてきて、静かな革命が進行していると著者が言う現代経済学の立ち位置のイメージがつかめます。
・経済の学習では、具体的事例なり問題から入ることが生徒の経済理解に役立つというのがネットワークでの議論の方法ですが、こんなガチガチの理論書も時々手にするのも頭の体操になるかもしれません。
・それにしても、先に紹介した『21世紀の社会契約』と対象は違うのであたり前と言えばそうですが、その落差にちょっとあたまがくらくらしました。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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