①どんな本か
・ヨーロッパ中世史の専門家が書いたヨーロッパ史の通史です。
・二冊を通して読むことで、ヨーロッパの歴史と周辺の関係が整理できる本です。


②本の内容は
・最初の本は、古代から近代初頭までを扱っています。後者はそれ以降、現代およびこれからのヨーロッパまでを扱っています。それぞれの内容と扱われている時代は以下の目次で確認できます。
・前書では、
第1章 ヨーロッパの誕生(古代)
 第2章 ロマネスク世界とヨーロッパの確立(中世前半)
 第3章 統合と集中(中世後半)
 第4章 近代への胎動(15~17世紀)
・後者では、
第1章 啓蒙主義から市民革命へ(18世紀)
 第2章 近代世界システム(19世紀)
 第3章 二つの世界大戦(20世紀)
 第4章 ヨーロッパはどこへ(21世紀)


③どこが役に立つか
・「歴史総合」の導入で近現代史が中心になること、日本史も含めてそれぞれの時代の特色ある事例から探究させる授業をめざすという方向が打ち出されています。先月号の『「歴史総合」をつむぐ』もその流れの本でした。
・それに対してこの本は、ヨーロッパという地域・空間を時間軸で記述した本です。中学も高校も通史で歴史を学ぶことができにくくなっています。それを補うには、教える側が、どこかで通史を頭の中に入れておく必要があります。その一助となるとおもわれる本です。
・ヨーロッパがヨーロッパであることを「ギリシャ・ローマの理知」「キリスト教の霊性」「ゲルマンの習俗」「ケルトの夢想」と捉える著者による池上通史をひもとくことで、歴史を縦につなぐことができるのではと思います。
・ヨーロッパ中心主義が批判されますが、本書では、周辺(近代では植民地世界も含めた全世界)まで視野に入れた記述になっていて、ヨーロッパを祭り上げたり、絶対視したりしていないところが「歴史総合」の授業の参考になるでしょう。
・公民科の先生にとっては、下巻の第4章が現在の世界を扱っていて、多くの問題が歴史的な背景をもっていることを確認するのに役立つでしょう。


④感想
・むかし『動物裁判』というちょっとマニアックな新書を読んだことがありました。それが池上さんの30代の本だったということを改めて知り、通史を書くには個別の研究の蓄積とある年齢が必要なんだなと感じました。
・どんな学問でも教育でも軸足がしっかりしていることが大事だと紹介者は思っています。この本では軸足はヨーロッパ史ですが、私たちがどんな軸足で授業を組み立てているか、改めて考えてみる必要ありと本書を読んで感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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