①どんな本か
・マクロ経済学では小野理論と呼ばれている独自の需要サイドの経済学の提唱者である、大阪大学特任教授の小野善康さんの近刊の本です。
・現在の経済停滞と格差拡大の原因は、人間が持っている資産選好であるという認識をもとに、それを一本の方程式から説明しています。

②本の内容は
・目次は以下の通りです。
 第1章 資本主義経済の変遷
 第2章 「モノの経済」から「カネの経済」へ
 第3章 成熟経済の構造
 第4章 格差拡大
 第5章 国際競争と円高不況
 第6章 政策提言
・著者が意図する、メインの章は、2章、3章でしょう。そこでは、現代経済を理解するための基本方程式が提示され、それが成熟社会になり変質を遂げてゆくことを、方程式の要素を加えたり変化させたりして説明されています。
・著者が強調するのは、成熟経済では、人々の興味が消費(流動性選好)からお金や富の保有願望(資産選好)にシフトしていて、それまでの政策が今や無意味になっているという点です。

③どこが役に立つか
・著者の意図とは異なりますが、「はじめに」の部分、第1章の資本主義の変遷の箇所、第6章の政策提言、「おわりに」の部分です。
 ここでは、著者の主張の根拠とそこから抽出される政策提言がコンパクトにまとめられています。
 著者である小野さん自身も、まず1章と6章の二つの章を読んで概略を押さえた上で、第2章にもどり順番に読んでいくようにすすめています。
・途中の各章は、著者の言うように「基本方程式に関する記述を読み飛ばして」読んでも理解できる記述になっていて、橋本内閣や小泉内閣、さらには安倍内閣での政策の変遷が浮かび上がるので、時代変遷のストーリーとして読むことで役立つことができるでしょう。
・もちろん、マクロ経済学をある程度学んだ事がある先生方には、基本方程式がどのように拡張され、入れ替えられてくるか、著者の理論を追いかけることもできますが、そこまでやるには相当腰をすえて、理解してゆこうという覚悟が必要になります。

④感想
・この本、新書ですが内容が濃く、ここで紹介するのをためらったのですが、朝日新聞の4月19日付のオピニオン欄に著書へのインタビューが掲載されていて、それがわかりやすく著者の主張をのべていたので、紹介した次第です。
・経済学の前提となっている合理的な個人への批判は、行動経済学など、これまでも私たちの目に触れていますが、著者のお金を愛好する、資産を愛好する人間を前提に理論を組み立てるという方法を吟味してみるのも面白いのではと思われます。
・著者は民主党政権時代のブレーンでしたが、今の岸田内閣の「新しい資本主義」(どんなものかまだ未知数ですが)との親和性があるのではというのが、紹介者の直感的感想です。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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