①どんな本か
 大竹先生が、オンラインで行った、早稲田塾という予備校の高校生にむけの行動経済学の特別講義と、東進ハイスクールの「悩み相談Q&A」で回答したものをまとめた本です。
 「若い世代を念頭に」書かれたと「はじめに」であるように、高校生への講義、質疑、問いに対する回答など、若い世代向けに行動経済学を理解させるための工夫が随所に見られる本となっています。

②本の内容は
 序章と全7章からなっています。
 序章は、「直感が邪魔をする」というタイトルで、三つの問題から直感的な意思決定が合理的な意思決定とずれてしまう例が紹介されます。
 第1章は、「「もったいない」を考える」というタイトルで、サンクコストの罠を扱っています。
 第2章は、「損失は避けたい」というタイトルで、リスクに対する選好、プロスペクト理論が紹介されます。
 第3章は、「先延ばしの心理」というタイトルで、現在バイアスが扱われています。
 第4章は、「暗黙の選択の利用」というタイトルで、第3章までの復習と、先延ばしの対策としてのデフォルトが紹介されます。
 第5章は、「みんながしています」というタイトルで、社会規範についてヒューリスティック、コミットメント、アンカリングなどが紹介されます。
 第6章は、「ナッジとは何か?」というタイトルで、ナッジとリバタリアンパターナリズム、スラッジとの違い、ナッジを巡る論議が紹介されます。
 第7章は、「仕事や勉強のなかの行動経済学」というタイトルで、仕事や勉強の場面で使える行動経済学の知見が紹介されています。

③どこが役立つか
 本書のすべてと言って良いでしょう。
 行動経済学の概観を高校生のレベルで押さえることがこの本でできます。また、高校生が参加するときに、『行動経済学の使い方』(岩波新書)をあらかじめ読んでおくという課題を与えていたので、この本と『使い方』が丁度、裏と表の関係になっている点でも、参考になるはずです。
 各章の「Q&Aタイム」にある、高校生の質問の箇所は、先生方が生徒から質問されたらどう回答するかを考えながら読むと良いでしょう。
また、各章の「ブレイクアウトタイム」の高校生に対する課題とその回答を参考に、授業のなかでの課題に活用することもできます。
活用可能ですが、経済の授業に関して言えば、授業のどこの部分で使うことができるかは、それぞれの事例にあわせて、読者の先生方が考える必要があります。

④感想
 高校生に行った実際の授業を基にしている本なので、そのリアル感が生きている本だと思いました。
 私たちが生徒に授業をするときの概念の噛み砕き方の良い事例ではないでしょうか。
 「あとがき」に書かれている、「アフターコロナの行動経済学」でナッジを使う例としてあげられている高校生の回答、また、「経済学部の女子学生比率はなぜ低い」の箇所は、あとがきだけではもったいないと思われる箇所でした。
 特に、経済学部になぜ女性が少ないのかは、進路指導の観点からも参考になる指摘でした。ここにでてくる経済学の特質の理解と行動経済学の普及により、女性の経済学部進学者が増えるかどうか、数年後が楽しみです。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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