①どんな本か
 農業経済学の枠組みを使って「食」の問題をとりあげ、その解決の道を探った本です。
 著者は早稲田大学の政治経済学部の准教授で、早稲田大学と出版社が手を組んでシリーズ化しようとしている、「学びのたね」シリーズのはじめての本です。

②本の内容は
 全体は四部12章に分かれています。
 第一部は、「地球と食卓をつなぐ感覚」ということで、1「食べると食料生産」、2「食糧事情が社会をつなぐ」、3「食料市場の限界」の3つの章で構成されています。
 ここでは、「食べる」を取り巻く社会のしくみと、経済学的な考え方が概観されています。
 食料をつくる(生産)、食料を売買する(市場)、食料を食べる(消費)が扱われて、食べることの特殊性、それにもかかわらず作られた食料が市場でされていること、しかし市場の交換も限界をもっていることが解説されます。

 第二部は、「飢える人と捨てる人」ということで、4「避けられない自然の摂理」、5「市場が効率的だとしても」、6「市場の失敗のせいで」、7「つきまとう政治的な思惑」、8「人間らしさの難しさ」の5つの章で構成されています。
 5つの章は、自然の摂理に関する問題(4)、食料市場の限界に関する問題(5,6,7)、人間らしさに関する問題(8)の三つのテーマにわけられています。
 ここでは、食料生産と食料市場の問題が多くの具体例をまじえて紹介されています。
 事例には、肥満と貧困、食品ロス、偽装、環境破壊、食料をめぐる貿易戦争など、身近なところから地球規模までの問題が登場します。
 また、8「人間らしさの難しさ」では、行動経済学の紹介がされて、行動経済学から見た食べることのバイアスが取り上げられています。
 
第三部は、「未来への挑戦」ということで、9「自然の摂理に立ち向かう」、10「食料市場の限界をふまえて」、11「人間らしさを加味する」の3章で構成されています。
 ここでは、それぞれの章が、第二部の三つのテーマに対応して、解決策の模索、その到達点、課題が書かれています。
 
最後の第四部は、「未来をイメージする」ということで、12「これからの食べるについて」で、健康で持続的な食生活を考えるための二つのワークが紹介されます。

③どこが役に立つか
 「授業のヒント」で触れたような、食を切り口にした大きなテーマの授業を構想するときにヒントになる本です。
 農業問題という枠組みではなく、もっと自分たちの生活から世界、現在・未来を構想させる広がりをもつ授業が構成できるのではないかと思われます。
 SDGsに関する授業でも、1,2,3、13,14,15などと関連させたテーマでの参考になるでしょう。
 8章と11章は、食の問題に行動経済学の知見を加えて問題を提起しています。8章では行動経済学の簡単な紹介もされています。こんなところからも行動経済学が使えるのだという事例になるのではと思われます。

④感想
 本屋さんで行動経済学の本をブックハンティングしていて偶然見つけた本です。
 ダイエットは行動経済学の本に必ず登場する事例ですが、その背景にある食まで行動経済学の知見を加える試みの本がでてきたことに、驚いています。
 最後の章にある、将来世代の未来を見据えた「フューチャーデザイン」というワークショップに興味を持ちました。
 この本では詳細が書かれていませんが、貿易ゲームなどと同じように、アクティビティの定番になるとよいなと感じています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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